サイゾーウーマンカルチャーインタビューろうの映画監督が気付いた健常者との壁 カルチャー 映画『Start Line(スタートライン)』監督インタビュー 「聞こえない人をわかって」とは思わない! ろうの映画監督が語る、健常者との“壁” 2016/09/02 19:00 インタビュー (c)Studio AYA ドキュメンタリー映画『Start Line(スタートライン)』は、生まれつき耳が聞こえず、健常者との交流を避けてきたという今村彩子監督が、そのコンプレックスを乗り越え次に進むために、自転車で沖縄から北海道まで日本縦断の旅をするロードムービー。各地で知り合った人々と積極的に話していこうとスタートしたのですが、映画は思いもよらない展開に。コミュニケーションは上手にならない、自転車の運転も危なっかしくて伴走者に叱られっぱなし……。「自分のダメさが映画にいっぱい出ています」と言う今村監督に、コミュニケーションの困難さについて、またろう者と健常者の溝について、手話通訳者を交えて語っていただきました。 ■こんなに叱られるロードムービーになるとは思っていなかった ――今作は、人とのコミュニケーションがテーマになっていますが、監督があんなに悪戦苦闘する姿を見るとは思いもよりませんでした。まず、監督がこのドキュメンタリーに着手したきっかけを教えてください。 今村彩子監督(以下、今村) 私は生まれつき耳が不自由で、健常者の方とのコミュニケーションがずっと壁でした。36年間、そのことに直面することなく逃げてきたのですが、このままじゃいけない、日本全国の人々とコミュニケーションを取ることで苦手意識を克服しようと、自転車での日本縦断の旅を決めたのです。 ――映画には伴走者として、今村監督の友人・堀田哲生さんが登場します。自転車での日本縦断なので、自転車屋さんでもある堀田さんを選んだのはなるほどと思いましたが、映画を見て驚きました。監督が、堀田さんにずっと叱られています(笑)。クランクインする前、このような展開になると想像していましたか? 今村 もっとみなさんと和気あいあいとコミュニケーションを取る映画になると思っていたので、まさか叱られっぱなしの映画になるとは思いませんでした(笑)。伴走者に堀田さんを選んだのは、私のダメなところを一番よく知る人だからです。私が監督として周囲に持ち上げられて、鼻高々になると、その鼻をバシっと折ってくれるような存在です(笑)。私は、自分がコミュニケーションベタなのは、みんなの話が聞こえないせいだと思っていました。でも堀田さんにずっと「コミュニケーションがヘタなのは、耳が聞こえないせいじゃない。あなた自身の問題だ」と言われてきたんです。私も頭の中では「そうかな」と思ってはいたのですが、でも結局「聞こえる人の言っていることだ」と思っていました。 ――堀田さんは監督に対して、思ったことをストレートに言うので、監督が落ち込んだり、言い合いになったり、それがまたスリリングでした。また、旅の最中で喧嘩して険悪になっても、2人がまた粘り強く自転車で走り続ける姿も印象的でした。 今村 私は計画を立てるのが苦手で、準備など何もかもギリギリで、この映画も危ない橋を渡るように進めてきたんです。そのせいか交通ルールを守れなかったり、事故に遭いそうになったり、危険な事がたくさんありました。堀田さんは、私の後ろを走っているので、そんな危なっかしい姿を見て、毎晩、私が交通事故に遭う悪夢を見てうなされていたそうです。伴走しているときも、眠っているときも、ストレスがたまって、堀田さんの体重は12キロも落ちてしまいました(笑)。2人とも精神的にしんどかったです。 でも、この映画はクラウドファンディング(目標のためにインターネットを通して寄付金や支援金を求めるシステム)で多くの人に協力していただいているし、支えてくださっている方もいるので、絶対にやめるわけにはいかなかった。堀田さんも責任感が強い方なので同じ気持ちだったと思います。あと旅の途中、SNSなどで応援メッセージを送ってくださる方もたくさんいて、それを見るのが楽しみで。「頑張れ」「応援しています」という言葉は本当に励みになりましたね。 1234次のページ Amazon 『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書)』 関連記事 「健常者が考えつかない世界がある」身体障害者の劇団主宰が語る、障害者にしかできない表現「男に媚びを売ってポジションをつくる女が増えている」ピンク映画界の巨匠が語る、現代女性の生き方川崎の団地老人のドキュメンタリー『桜の樹の下』、孤独死を越える「1人で生きる力」批判なんて気にしない! ゴージャス松野とビッグダディが説く「自分らしい生き方」介護現場でセクハラが多い理由 見て見ぬ振りをされた高齢者の性