サイゾーウーマンカルチャーインタビューピンク映画の巨匠が語る現代女性の生き方 カルチャー ピンク映画界の巨匠・浜野佐知監督インタビュー(前編) 「男に媚びを売ってポジションをつくる女が増えている」ピンク映画界の巨匠が語る、現代女性の生き方 2016/06/03 16:00 インタビュー浜野佐知 浜野佐知監督 ピンク映画界の巨匠として、数多くの作品を手がけてきた浜野佐知監督。その功績はピンク映画だけにとどまらず、2001年に発表した一般映画『百合祭』はアメリカ・フィラデルフィア国際映画祭、ブラジル・ミックスブラジル国際映画祭でグランプリを受賞するなど、海外でも称賛を得ている。昨今では『アウト×デラックス』(フジテレビ系)に出演し、男性への熱い怒りの言葉が多くの女性の共感を呼んだことで話題になった。男性ばかりの映画業界に飛び込み、男性によってつくりあげられてきた社会のシステムや女性の生き方に変革をもたらそうと戦い続けてきた浜野監督は、今の社会をどう見ているのだろうか。現代の社会における女性の生き方について話を聞いた。 ■加速する「男ジャパン」、今は女性も一枚岩ではない ――浜野監督はよく「男ジャパン」を批判されていますが、それは具体的にどういったものですか? 浜野佐知監督(以下、浜野) 「男ジャパン」というのは、男がつくりあげてきた今の日本という社会のシステムのこと。男にとっては非常に都合がよく、女にとっては非常に生きにくい今の社会を私は「男ジャパン」と呼んでいます。私たちの世代は「女は結婚して夫に尽くさなければならない」「子どもを産んで育てなければならない」といった社会的な刷り込みがあって、女が囲い込まれてきた枠組みを取り壊していくことが必要でした。だから、私は「映画」という手段でそんな社会のシステムを壊そうとしてきたんです。 ――現在では「男ジャパン」や女性の意識も変わったのでしょうか。 浜野 確かに男女雇用機会均等法や男女共同参画法ができて世の中が変わり、男女平等になって、女性も生きやすくなったように見えますが、実際には働く女性の置かれた立場は何も変わっていない。いくら法律ができても、男の意識が変わらない限り、男ジャパンは変わらないんです。むしろ、男の危機感からか、仕事のできる女性に対するバッシングが強くなっているように感じますね。 結局、男が認める女というのは、男のルールの中でおとなしく言うことを聞く女なんですね。下手すれば、男が恥ずかしくて言えないようなことを代弁して、女の前に立ちはだかる女、私は「バカ女の壁」と言っていますが(笑)、男に媚びを売ることで自分のポジションを確立するような女が、目に見えて多くなった気がします。 例えば、政治の世界でも女性の政治家が増えれば世の中が変わるのかと言えば、そうでもない。もちろん社会を変えるために頑張っている女性議員もいますが、そういう女性を男ジャパンは絶対に認めない。逆に、男に逆らう女は徹底的に切って捨てるというシステムができあがっている気がします。今まで私は映画を作るときはシスターフッドを旗印にしてきましたが、今はやっぱり女も一枚岩ではないな、と感じています。悔しいことですけどね。 ■私は私だという生き方 ――女性も自分の生き方をしっかり見つめないといけないということですよね。女性の場合、どこか結婚や育児といった道を逃げ道として使ってしまうこともある気がします。 浜野 だからダメなんですよ。自分の人生は死ぬまで自分が自分らしく生きるための時間の積み重ねであるべきです。男の面倒なんて見ている場合じゃない(笑)。見栄や体裁で相手を選んで、そんな男の子どもを産んでどうするのって話。確かに今の世の中で自分が自分であるために生きるのは茨の道かもしれないけど、だからこそ逃げない、という勇気が必要だと思いますね。 以前、男女共同参画センター主催の講座で、中学生に「仕事」をテーマに話をする機会があったんですが、女子は全員「どうすれば家庭と仕事を両立できますか?」と聞いてきました。男子からは皆無ですよ。教育の問題もあると思うけど、いまだに女は結婚して家事をして子育てをして家庭を守るという刷り込みが生きているんですね。そういった質問には、「両立なんて考えなくていい!」と答えます。真に自分のやりたいことをやり抜こうと思ったら両立なんてあり得ない。 結婚がダメだというわけではなく、家父長制という結婚のシステムに問題があるんです。だから、全く新しい結婚のスタイル、生活様式を自分で考えればいいんですよ。妻だから、夫だからじゃなく、男と女が平等に暮らしていくためのシステムをつくっていく。男と女の役割に縛られた今の結婚の形態からまずは変えていかなくちゃいけないと思っています。 ――同性愛や高齢者の性などタブー視されてきた女性の性を映画にしていらっしゃいますが、最近では義足や義手の女の子が自ら「欠損女子」というバーを開くなど、タブーに関してのアプローチは女性も少しずつ変わってきているのかなという気がします。 浜野 どんどんやってもらいたいですね。差別を逆手に自分を表現することができる土台がやっとできてきた。でも、それは彼女たち自身の勇気がなし得たことだと思います。 何が一番重要かって、「私の体は私のもの」って意識できる女性が増えたこと。当たり前のことだけど、女がこれを獲得するのにどれだけ時間がかかったか。乳がんで胸を切除した人に「女性のアイデンティティはおっぱいなんでしょ?」と言った男の映画監督がいましたけど、そんな女はいない(笑)。乳房も手足も単なる体の一部です。だから、乳房を切除した人が傷跡をタトゥーと合体させて露にしたり、足をなくした人が義足で堂々と肉体を表現したり、本当にかっこいいと思います。 私は『百合祭』という映画で高齢女性の性を描きましたけど、100歳になろうが、体がどうであろうが、「私は私」という生き方をする人たちに惹かれるし、応援したいと思っています。映画という手段で、社会に風穴をあけて、道を作っていくことが私の仕事だと思っています。 12次のページ Amazon 女が映画を作るとき (平凡社新書) 関連記事 エロスのアイコン“団地妻”は「普遍的な女性像」――ロマンポルノ映画は女をどう描いたのか女だって女に癒やされたいときがある レズビアン風俗体験記“男社会”だった吉本興業の伝説的女性マネジャーが語る、セクハラ・パワハラと女の媚「男社会で働く女は男装のコスプレをする」中村うさぎが『恋の罪』で語る加藤諒、マスクで変装も眉毛で顔バレ! 意外と「ヤリ手」な一面も?