亡くなった父へ、娘が抱く後悔と自責……「父の言葉をいいように解釈して、苦しみから逃れてる」と語る胸中
子煩悩だった父親は、子どもたちにおいしいものを食べさせるのが好きだった――と、井波さんは父親との記憶を手繰り寄せるように、「不思議なことがあるんです」と話し出した。
「父は食べるものに困る時代に育ったせいか、私や弟においしいものをたくさん食べさせてくれました。旅行や着るものにはまったく興味がなかったようで大した思い出はありませんが、エビやカニや新鮮なお刺身などごちそうの思い出はたくさんあります」
父親が亡くなって、まだ四十九日も済んでいないころ、井波さんは最寄りのバス停でバスを待っていた。
「そこに、知らないおじさんが自転車で通りかかって、『近くの浜で獲った』と、荷物カゴの中にあるワタリガニを見せてくれたんです」
それは季節ごとに父親が食べさせてくれていたカニだった。
「『うちの父が好きなカニです』とつぶやいたら、『これをやるから、お父さんに食べさせてくれ』と言って、カニをくれたんです」
井波さんはあっけにとられながらもそのカニを受け取り、茹でたカニを父親の仏前に供えた。
「そのあと、皆でありがたくいただきました。父は亡くなってからも、私たちにカニを食べさせてくれようとしたのかなと思っています」
なのに――と井波さんは悔やむ。
「父は私たちにおいしいものを食べさせようと必死だったのに、私は父の食事制限の方に必死でした。親を長生きさせるために必死になるより、親が一瞬でも幸せに生きられるよう必死になればよかった。父の好きなものを思う存分食べさせてあげればよかった」
父親には糖尿病と循環器系の病があり、カロリーと塩分が制限されていた。塩辛いものが大好きだったのに、「梅干しはダメ」と怒って禁止していた。
「そういうときに、『オレは梅干しを食べ過ぎないよう、見て味わって、匂いを嗅いで味わって、最後に食べて味わって、1個で3回味わってるんだ』と言っていたのが忘れられません。長生きしてほしいなんて欲張らずに、のんびり一緒にお茶を飲んでいるだけでよかったのに……」
――続きは8月1日後悔