【連載】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

妃殿下、「革ジャン」着用で大問題に! 皇室儀式に「あんなモノを着て!」と女官大激怒【日本のアウト皇室史】

2020/09/12 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

アメリカ育ちの勢津子妃、革ジャンを儀式に着用

――うーん、また女官からキツめのチェックが入りそうな雰囲気。

堀江 ご想像どおりです。殿下のおつきあいもなさらないのは妃殿下として間違っている。自分の好きなものを周囲が作ってくれるからと、殿下をさしおき、それを自分だけ食べ続けるとは配慮が足りていない、との叱責が「ある筋」から届いたのです。宮邸の女官が、勢津子妃の“先輩”にあたる別の妃殿下にでも報告したのでしょうかね。

 勢津子妃の場合、外交官をしているご両親はその時イギリスにいたので、日本の家庭生活、日本の妻のあり方について親から勉強する機会がなかった……というのですね。勢津子妃のおばにあたる方も、武家から宮家に嫁いだ梨本宮伊都子(なしもとのみや・いつこ)妃で、その方のアドバイスは「妃殿下というものはしんぼうが第一」でした。

――「しんぼう第一」……。その様子では、ほかにも厳しい注意を受けていそうなのですが。

堀江 大正天皇の多摩御陵に最初にご参拝、というとき、秩父宮様は「君はぼくがするとおりに真似していたらよいよ」といってくださったので、そのとおりにしても、女官から「ちょっと申し上げかねますが」というチェックが入ったのです。


―――クレームの付け方の言葉使いからして独特ですね(笑)。

堀江 「妃殿下は女子(にょぎ)さま」なので、宮様はしていなくても、もう一度、御陵の方を振り返り、そこで止まり、さらにもう一回多めにお辞儀をなさるべきであった、と。

 「女子」は、御所風では「にょぎ」と読むわけですが、勢津子妃には当初、それ自体がピンと来ず、何を言っているのかわからなかったと書いておられるのでした。

 ほかには、宮様が陸軍大学を卒業、皇族軍人として「歩兵第三連隊第六隊長」の肩書で代々木練兵場で大礼観兵式(天皇が閲兵する儀式)にお出ましになられたときにも、勢津子妃の服装に厳しい指摘が寄せられたというのです。

――立ち居振る舞いとか衣服がマナー違反ですよ! といわれるのは、なかなか傷つくものですよね。


堀江 まさにそうです。勢津子妃も、涙ぐむこともしばしばあったと書いておられますね。

 ちなみに閲兵式に着て出たのは「アメリカの学生たちが着るようなお粗末な皮コート」と書いておられますが、革ジャンの類いでしょうか。もちろん本当に「お粗末」なわけがありません。風も吹いているし、寒いし……ということで、アメリカ育ちの勢津子妃は革ジャンを選んだのですが、日本ではまだ革ジャン自体が珍しかったこともあり、「あんなものを着て!」と大問題となったようです。

――妃殿下たるべき者、どんな場所でもオートクチュールを着て、ほほえみ続けなければならないのでしょうか?

堀江 ちなみに戦前の宮中では、和服(たとえば着物)より、ドレスなどの洋服のほうがよりマナーにかなった正装ということになっていたそうですが、ドレスコード問題は今日でも悩ましいものです。

 それにしても女官も、女官で大変です。憎まれ役に徹してでも、ほかの生活文化圏から嫁いでこられた妃殿下を一人前の皇族に育てあげねばいけないのですから。古写真の中の妃殿下たちは皆さま、美しいだけでなく独特の威厳をもっておられますが、それもすべて女官たちから鍛え上げられて身についたものだったのかもしれませんね。

 秩父宮様ご夫妻のエピソードは短い記事では紹介できないくらい、まだありますので、ご興味がある方は『銀のボンボニエール』をぜひご一読ください。

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『眠れなくなるほど怖い世界史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

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最終更新:2020/09/12 17:00
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