[連載]白央篤司の「食本書評」

料理がグッと気楽になる! 簡単・うまい・栄養◎、『70歳からのらくらく家ごはん』レシピがスゴイ

2020/05/12 18:00
白央篤司

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

『70歳からのらくらく家ごはん』(中村育子 著、女子栄養大学出版部)、1000円(税別)2020年2月25日発行 B5判

 この本は「70歳からの」とタイトルにあるけれど、広い世代に役立つ食の知恵がつまっていることをまず書いておきたい。特に「きちんと料理しなきゃと思いつつ、できてない……」と罪悪感を抱えている人、できあいを買ってくることが多く栄養バランスが心配な人などは、「そんなことでもいいのか!」と気が楽になると思う。もちろん高齢の方、そして高齢の親御さんがいる人なら、ぜひ一読をおすすめしたい。

 筆者の中村育子さんは在宅訪問管理栄養士。在宅診療を受けている患者さんの家を訪ね、栄養指導を行われている。

「20年以上、いろいろな家庭を訪問し、食事面や栄養に問題を抱えている人が大勢いることを知りました。最近は老老介護や男性介護者も増えており、特に、料理をしてこなかった男性がメインの介護者になると家事が負担になり、追い詰められてしまうケースも見てきました」(まえがきより)

 ずっと料理は誰かに頼りっぱなしだった人が、介護せざるを得なくなり、料理ができず途方に暮れる……という話はよく聞かれる。


 栄養バランスだけではなく、どうしたら調理のハードルを下げられるか、という思いから、中村さんは「市販品をフル活用した簡単料理」を考えた。冷凍食品、缶詰、できあいのおそうざい、そしてレトルト介護食品に「ほんの少しだけ手を加えた」料理の数々。下ごしらえの手間が省け、味つけの失敗もなく、すべて手作りするより安価であると中村さんは説く。

 うーん、大賛成! これはご高齢の方のごはんでなくとも言えること。調理経験がない人でもとっつきやすく、保存期間の長いものが多いので、食材を無駄にする可能性も低い。料理に時間はあまりかけられない、手間は少ないほうがいい、でも栄養も考えたいという人にも、中村さんの考える料理を知ってほしい。

 レシピの最初に紹介される「ギョーザのスープ」は、冷凍餃子と冷凍ホウレンソウに白菜と椎茸、卵を加えてつくるもの。味つけは顆粒だしと醤油のみ、一つの鍋だけでできる。実際作ってみると、手軽さと料理的達成感のバランスがとてもよくとれたレシピであることがわかる。作りやすいけれど、それなりに料理した気持ちになり、野菜もしっかりとれる。今まで料理をしてこなかった人にぜひ作ってみてもらいたい。

 本書には46のレシピが紹介されるが、個人的にヒットだったのが「魚の缶詰でごちそうポテトサラダ」(59ページ)。おそうざいでポテサラを買ってきて、キュウリとサンマのかば焼き缶を混ぜていただくもの。野菜の副菜に手軽かつおいしくたんぱく質をプラスする、お手本のようなアイディアだな、と。

 味つけはもう決まっている、失敗しようがない。「骨ごと食べられ、カルシウムも補給」できる。これをパンではさめば、もう一食が完成だ。


70歳からのらくらく家ごはん