【連載】日本を捨てる女性たち

「日本が一番だと思っていたけれど、実はそうでもない」日本を脱出し、タイでデザイン会社を経営する女性

2016/12/17 15:00
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バンコクでデザイン会社を経営する金野芳美さん

 近年、東南アジアに移住し、現地で仕事や生きがいを求める日本人女性が急増している。「海外在住」=「大企業のリッチな駐在員」という時代はもう終わり、いまは中小企業や、ごくふつうの個人が、軽やかに海を越えていく。

 中でもタイは、この10年余りで日本人在住者が急増。2001年にはおよそ2万人だったが、現在、7万人を数える。そのかなりの部分が、20~40代の女性なのだ。「内向き」になったといわれる日本人だが、元気がないのは若い男たち。女性はどんどん海外にも翼を広げている。

 では、どうしてタイなのか? アジアなのか? このシリーズではアジアで活躍し、日本にいるときよりも、はるかに生き生きと暮らす女性たちを紹介していく。

○第1回
金野芳美さん(33) タイ・バンコク在住
「タイは、生活をしていて『重さ』がないんです」

「日本で暮らしていると、結婚とか、将来とか、老後とかっていう、重たい石をのっけられるじゃないですか。それに押しつぶされそうになってしまうんです」


 そう語る彼女は、タイに暮らし始めて10年になる。タイにある日系企業に就職をする、いわゆる「現地採用」を経て独立、いまでは社長として、タイ人パートナーと共にデザイン会社を切り盛りしている。

 首都バンコクの中心部、シーロム通りの西部、街路樹が熱帯の日差しを遮る小道には、瀟洒な古民家を利用した建物がいくつか並ぶ。そのうちの1軒、1階はカフェだが、2階部分が金野さんの「城」であるオフィスだ。

「タイでも、もちろん、先々のことは考えていかなくてはならない。でも日本と違って、重石のように上からのっかってくるのではなくて、将来の選択肢は道に落ちている感じ。それを自分で選んで糧にするもよし、踏み潰すもよし。だからタイ人も、タイで生きている日本人も、変にプレッシャーや世間体に悩むことはないですよね。生きていて重さがない」

 タイに住む多くの日本人が語る、そのゆるさ。人間はこのくらい気楽に、深く考えずに生きていいのだと思わされる。将来のことを、いくら心配してもしょうがない。意味がない。そうわかってはいても、もやもやした不安感に覆われる日本。そこから抜け出した日本人は、世界の広さと価値観の多様さに、救われる気さえする。


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