『医者のたまご、世界を転がる。』著者・中島侑子さんインタビュー

「日本で報じられる印象と現地の状況は違う」 世界一周した女性医師が語る、一人旅の魅力と注意点

2016/07/04 15:00
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中島侑子さん

 東京の大学病院、沖縄の病院を経て、現在は長野の病院に勤務する救命救急医の中島侑子さんは、研修医修了後、世界一周旅行に出た。その旅行で、ネパールの無医村、インドの路地裏、パキスタンのテロリスト村などを訪れた経験をもとに、このたび『医者のたまご、世界を転がる。』(ポプラ社)という著書を出版。3年間で52カ国を訪れた中島さんに、女性の一人旅の魅力や苦労、注意点などを聞いた。

■日本人は「自分を犠牲にしても、人のために」という気持ちが強い

――今回出された初の著書『医者のたまご、世界を転がる。』は、単なる世界一周旅行の経験を綴るのではなく、医師である立場から医療を切り口に旅を描いた、ユニークな本ですね。出版に至った経緯を教えてください。

中島侑子さん(以下、中島) 本を出したいという夢はずっと持っていたのですが、帰国後しばらくは仕事も忙しくて、そのままになっていました。

 もともと帰国したばかりの頃は、医者と名乗る自信もないほどだったのですが、1年半くらい働いてから自分の旅を振り返ったときに、以前とは着目点が変わっていました。実際働いて感じたこと、働いたからこそ得た知識があって、また違う視点で自分の旅を見ることができて、「あれはこういうことだったんだ」などと気づいたこともいろいろありました。旅の魅力だけでなく、普段あまり身近にない医療の面白さも伝えられたらと思い始めて、医療と旅を切り口に本を書きました。また、さまざまな出会いを通して私が世界一周の旅に出たり救急医になったように、この本が読者の方々の中に新たな選択肢を生み出す一助になればうれしいです。


――旅行で訪れた国々と日本の医療の違いで、特に印象に残っていることはありますか?

中島 技術の差や保険制度については、それぞれの国の事情があるので仕方ないと思いますが、医療従事者の勤務時間は雲泥の差ですね。それから、勤務に対する心持ちも違います。日本人の医療従事者は、犠牲的精神や責任感がすごく強いと思います。プライベートな時間を過ごしていても、担当の患者さんの状態が変わると呼び出されて駆けつけるとか、海外では普通ないですね。

 日本の場合、例えば勤務時間が9時~5時だとして、5時の時点で気になる患者さんがいたら、バトンタッチする人がいても帰らないという風潮にあります。海外では、全部とはいえませんが、終業時間が来ると、気になる患者さんがいても別の人に引き継いで帰ります。日本人は「自分を犠牲にしても、人のために」という気持ちが強い気がします。ほかの仕事でもそうかもしれないけれど。

■イスラム教の人に対しては、女性だから近づくことができる

――女性一人旅の良さとは、どういうところにありますか?


中島 幸い私は危険な目に遭わなかったから言えるのかもしれませんが、みんな親切にしてくれることですね。頼んでいないのに道を教えてくれたり、荷物を持ってくれたり……。それから、民族の写真を撮る時も、特にイスラム教の人に対しては、男性だと警戒されるけれど、女性だから近づくことができるというのはあると思います。

 イラン人の女性は外国人の男性と話してはいけないのですが、私は問題なくイランの女性とも男性とも話すことができました。ですから、イスラム教系の国に行った時は、「女性でよかったな」と思いました。

――イスラム教圏に女性が旅行に行くと、セクハラに遭うという話もよく聞きますが。

中島 私は、3年の旅行中で、痴漢に遭ったのは1回だけでした。「イランでは、女性は、ほぼ全員痴漢に遭うよ」と人から言われていたので、なんとなく覚悟はしていたんですけど、やっぱり遭いました。確かに私は少ないほうで、ほかの人はもっと遭っているので、そういう意味では、女性ならではの危険なのかもしれません。男性も遭っている人はいましたけど。

――痴漢に遭った時は、どういう状況でしたか?

中島 バイクで後ろからブーンと走ってきて、追い越しざまに、お尻をぎゅーっとつかんで去るっていう状況でした。その時間0.5秒くらいで、あまりにびっくりして怒る瞬発力もなく、「えっ!?」みたいな感じで終わっちゃいました。その時、たまたま日本人の男性も一緒にいたのに、(犯人は)すごい勇気だなと思いました。セクハラは、こっそりというより、堂々とするほうが多いといわれているようです。

医者のたまご、世界を転がる。