佃野デボラの「味コン」!!

水谷豊が『相棒』の杉下右京になる、はるか前……トンチキ青春映画で演じた“汗臭い童貞”役の魅力とは?

2023/05/04 16:00
佃野デボラ(ライター)

水谷豊の原点(?)、汗臭い童貞高校生「おかちん」役

「ナンパ! アタック! レッツゴー!」
「チッキショ〜! 館山の野郎うまいことやりやがって! ぶったまげたな」
「おおかた今ごろ、猛烈キッスのボインモミモミってとこだぜ?」
「俺たちはフラれっぱなしのプロレタリア、つまりフラレタリアというわけだ」
「そうだ! 俺たちは、モテる奴らからどんどん女を搾取されてる、フラレタリア階級だ!」

 汗臭い昭和ワードと、オリジナリティあふれるトンチキ語の洪水にクラクラさせられる、これはある種ドラッグ・ムービーと言っていいかもしれない。そして本作の「ボンクラ童貞高校生」の遺伝子は、のちの『グローイング・アップ 』(78年)、『アメリカン・パイ』(99年)、『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(07年)など、海外の人気作品にも受け継がれて…………ねえわ!

 令和の倫理規範やコンプライアンスに照らし合わせると、完全にアウトな表現や台詞のオンパレードなので、万が一、本稿を読んで視聴する読者がおられ、気分が悪くなった場合は、ただちに視聴をおやめください。本稿ではひとつ、日本映画における比較歴史社会学の見地から論じさせていただくとして……。

 とにかくこの「フラレタリア同盟」の3人、高校生の分際で酒は飲むわタバコは吸うわ、キャバレーでぼったくられた末に、支払いが足りなくてボコられたり、ジャンケンで勝った者に、負けた2人がトルコ風呂(84年にソープランドに改称)をおごろうとしたりと、無茶苦茶だ。かといって彼らは、不良というわけでもない。性欲旺盛な、普通の男子高校生3人組なのである。「おかちん」の女性の好みについての、「フェイ・ダナウェイみたいな、どことなく白痴めいた女性」という説明もヒドい。

 「おかちん」と「しい公」は2人して、クラスのマドンナ・京子に惚れてしまうのだが、最終的におかちんは「あいつを幸せにしてやれるのは、しい公しかいない」と恋路を譲る。そして、夜の新宿で淫乱姐さんに拾われて「強チン」され、童貞を喪失するのだった。こうした「お人好しキャラ」においてこそ輝く魅力は、その後、水谷が発揮し続けた役者としての妙味につながっているような気が、しないでもない。加えて、「フラレタリア同盟」のほかの2人がいかにも“セリフセリフした台詞”を発するのに対して、水谷だけが割と自然な芝居をして、自分だけの「味」を持っており、弱冠18歳にして名優の片鱗を見せている。


水谷豊は『新・高校生ブルース』を最後に、あやうく俳優を引退するところだった

 ところが、本作を撮り終えるや水谷豊は、大学受験のために一度俳優を辞めてしまう。そして受験に失敗して家出、自分探しの旅へと赴くのだった。2年のブランクを経て俳優に返り咲き、『太陽にほえろ!』(72〜86年/日本テレビ系)第1話の犯人役で注目を浴びた後、出演作を重ねていく。そして74年に『傷だらけの天使』に出演。その後の活躍は多くの人の知るところだ。

 つまり『新・高校生ブルース』は、水谷の俳優人生の曲がり角に立てられた道標のような作品とは言えまいか。あそこで俳優を完全に引退してしまわずに、本当によかった。あやうく最後に演じた役が、汗臭い「フラレタリア同盟」の一員ということになってしまうところだった。あの時の「おかちん」があってこそ、現在の「右京さん」があるというものだ。