サイゾーウーマンカルチャーブックレビュー『らんたん』と『マリメッコの救世主』 カルチャー 【サイジョの本棚・打ち合わせ編】 シスターフッドに支えられながら道を切り開いた女性を描く、『らんたん』『マリメッコの救世主』 2021/12/25 13:30 保田夏子 サイジョの本棚 (C)サイゾーウーマン ここはサイゾーウーマン編集部の一角。ライター保田と編集部員A子が、ブックレビューで取り上げる本について雑談中。いま気になるタイトルは? ◎ブックライター・保田 アラサーのライター。書評「サイジョの本棚」担当で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。とはいっても、「女性の生き方」にまつわる本がどうしても気になるお年頃。趣味(アイドルオタク)にも本気。 ◎編集部・A子 2人の子どもを持つアラフォー。出産前は本屋に足しげく通っていたのに、いまは食洗器・ロボット掃除機・電気圧力鍋を使っても本屋に行く暇がない。気になる本をネットでポチるだけの日々。読書時間が区切りやすい、短編集ばかりに手を出してしまっているのが悩み。 A子 早いものでもう12月ですね。2021年は、この「サイジョの本棚」で何度か取り上げた、作家・瀬戸内寂聴さんが死去されましたね……。 保田 寂聴さんは幅広いジャンルの作品を残しましたが、「サイジョの本棚」では岡本かの子や河野多惠子、大庭みな子ら近現代を生きた女性の生涯を、エッセイと評伝の間のような手法で描き出した作品群を特に取り上げてきました。 仲良し・不仲では片付かない「女同士」の関係、でも「女の敵は女」じゃない3冊 ひと言で「女同士の関係」といっても、そのバリエーションは無限にある。「女同士はドロドロしてる」「女の敵は女」と思っている人には見えない世界が描かれた3冊を紹介したい。 ...サイゾーウーマン2018.03.10谷崎潤一郎「女の王国」、岡本かの子「3人の男奴隷」文豪の私生活スキャンダルを読む3冊 文豪と呼ばれる人も、教科書に出てくるような人も、時に傍から好奇の目で見られたり、スキャンダルで世間を騒がせたりした。世間一般の「清く正しい」枠にはまらない側面を見つけてし...サイゾーウーマン2017.08.06 というわけで今回は、近現代を生きた人々に焦点を当てた魅力的な書籍を紹介したいです。 A子 まず、『らんたん』(柚木麻子・著、小学館)ですね。 保田 恵泉女学園の創設者・河井道を主軸に、明治から戦後にかけて活躍した女性たちを描いた長編小説です。大まかな流れは史実ですが、細かなエピソードは脚色・創作され、起伏に富むエンターテインメント性の高い作品になっています。 A子 津田梅子や新渡戸稲造、朝ドラでもモデルになった村岡花子や広岡浅子ら、当時の著名人が自然に絡む絶妙なキャラクター造形が、ウェブ連載段階から話題になっていました。 保田 彼女ら彼らについてまったく知らない状態で読んだとしても、パワフルで人を巻き込むことが上手な主人公にぐいぐい引っ張られるように一気に楽しめます。主人公はもちろん、津田と大山捨松、村岡と柳原白蓮ら女性同士の親密なエピソードを意識的に盛り込んでいるように思いました。特に私が現代性を感じたのは、主軸となる河井道の恋愛が“描かれない”ところです。 A子 小説に限らず、実在の人物をモデルにしたエンタメは数多くありますが、女性となると、実際に成し遂げた業績より“恋愛が見せ場”であったりすることも多い。もちろん、そういう作品にも名作はありますが……。 保田 実際に河井道は“同志”である一色ゆり、およびその夫と生涯同居していて、恋愛らしいエピソードは見られないようです。けれども男女問わず、多くの人々と、一口には言えないような濃い人間関係をたくさん紡いでいて、物語を深く豊かに彩っています。 A子 「女性=恋愛への憧れ」という意識もまだ強いですが、恋愛に溺れた男性もいれば、特に必要としない女性もいますからね。 保田 そして、同時に、日本の女性教育史を追える作品でもあります。私たちが受けた教育は彼女らの尽力あってこそで、次の世代へ大事につなげるべきものであることに気づかされました。 次のページ 「女性の一人外食」が問題視された時代に、倒産寸前のマリメッコを救った女性 123次のページ 関連記事 話題のエッセー『常識のない喫茶店』と、『スカートのアンソロジー』に通底するハラスメントにNOを突き付けるための姿勢女性の幸せは「不当」なの?/愛情は素晴らしいが、すがって生きるものではない/差別心は「親しみ」の裏返し【サイ女の本棚】ドラマ『アンという名の少女』副読本にオススメ! 斎藤美奈子『挑発する少女小説』氷室冴子『いっぱしの女』誰も信用できない不安と、家族から受ける屈辱――認知症患者の日常を追体験できる村井理子『全員悪人』の悲しさコロナ禍の今こそ読みたい! 近現代の作家たちの“死生観”から死への「うろたえかた」を見つめ直す『正しい答えのない世界を生きるための死の文学入門』