オンナ万引きGメン日誌

「子どももいるのでお願いです。助けてください!」示談金を押しつける万引き主婦の恐るべき執念

2021/11/13 16:00
澄江(保安員)

「毎日、示談してくれって謝りに来られてね。ちょっとしつこくて困っているの」

 当日の現場は、都内の街道沿いに位置する食品専門スーパーD。倉庫と見紛う造りの大型店舗で、精肉や鮮魚を中心に取り扱う人気店です。ここ数年、毎週のように通っている馴染み深い現場で、これまで多くの万引き者に声をかけてきました。一日いれば、一人は必ず挙がる。そんなレベルにあるお店といえるでしょう。バックヤードから事務所に向かうと、顔なじみである白鵬関(現・間垣親方)に似た体の大きな店長が出迎えてくれたので、軽く挨拶を済ませて近況を伺います。

「最近、また増えてきている感じでね。先週も、寿司を盗った女がいたから自分で捕まえて、被害届を出したんだ」
「大変でしたね。時間かかったでしょう」
「何回か捕まったことがある人らしくてさ。いつもよりしっかりした調書を作ることになって、5時間くらいかかったよ。それから毎日、示談してくれって謝りに来られてね。本部から『謝罪は受けるな』って言われているからお断りしているんだけど、ちょっとしつこくて困ってるんだ」

 基本(基本送致のこと)で処理されたということは、短期間の内に犯行を繰り返したか、複数の犯歴を有するに違いありません。日参してまで謝罪の受け入れを求めているところから察するに、保護観察中や執行猶予中、もしくは保釈中の身である可能性まで考えられます。

「今日も来ますかね。どんな人ですか?」
「32歳の主婦。もし来たら相手してもらっていいかな? 今日、店長会議があって、そろそろ出ないといけなくてさ」
「お相手するのは構わないですけど、何をお話したらいいのか……」
「聞くだけ聞いてやってよ。俺にもどうにもできない話だからさ」

 この日の勤務は、開店時刻である午前10時から18時まで。店内の温度設定が低いため、寒さ対策をしっかりした上で現場に入りました。売場を一回りしてみれば、低い棚が多く万引きしにくい感じがしますが、店の一角にある乾物コーナー周辺は完全な死角となっています。


(やる人は、ここで隠す)

 これまでの経験から確信に至り、しっかりと視界を確保してから、店内の巡回を始めました。

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