白央篤司の「食本書評」

『直売所、行ってきます』『めんどうなことしない うまさ極みレシピ』ほか、フードライター・白央篤司が選ぶ上半期のオススメ3冊

2021/06/12 14:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

さて6月になり、今年も半分が過ぎようとしています。この半年間で印象的だったけれど紹介できずにいたものを、今回は3冊まとめてご紹介。コミックエッセイ、レシピ集、そして料理論的なものの3つを選びました。

旅好きのあなたに『直売所、行ってきます』松本英子 著

『直売所、行ってきます』『めんどうなことしない うまさ極みレシピ』ほか、料理ライターが選ぶ2021年上半期のベスト3冊の画像1
『直売所、行ってきます』朝日新聞出版 900円(税別) 2021年3月30日発行

 人間はふと非日常を求める。

 通常の生活進行から時折ちょっと逸脱して、いつもと違う場所に、いつもと違う時間の流れに自分を置いてみたくなるものだ。漫画家の松本英子さんによるコミックエッセイ『直売所、行ってきます』を読んで、ちょっとした非日常に自分をゆだねる快さを存分に思い出した。

 昔から「ひそやかに在るもの」で「そこならではのもの、土地のエキスが感じられるもの」に心ときめかせてきたという松本さん。実家の近くにできた直売所では、「こんな野菜も作られていたのか」と、なじみのある土地の知らない一面を知る。別の直売所ではハチミツを見つけ、東京23区内に養蜂場があることを知り、実際に訪ねてもみる。直売所をめぐるごく小さな「旅」の中で、いろんな出会いを楽しむ松本さんの気持ちの増幅が豊かで深く、読んでいて引き込まれる。


 西多摩の茶畑を訪ねたページなどは、こちらの心の中にもパノラマが広がり、深呼吸したくなるような爽快感があった。そして長野県・上田市を訪ねておやきの直売所をめぐるくだりは、旅先の自然と自分がリンクして溶け合うような一瞬までもが描かれて、まことすばらしい。なかなか旅に出られない今、旅好きのあなたに。

直売所、行ってきます