白央篤司の「食本書評」

『いつか中華屋でチャーハンを』『バー オクトパス』フードライターが“猛烈にオススメ”する3冊

2021/01/11 21:00
白央篤司

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の3冊:『食べることと出すこと』『バー オクトパス』『いつか中華屋でチャーハンを』

左から『バー・オクトパス』『食べることと出すこと』『いつか中華屋でチャーハンを』

 今回、担当編集さんから嬉しい提案をいただいた。「毎月1冊だと、紹介したくてもできなかった候補がいろいろあるんじゃないですか。そういうのをまとめて紹介する回があってもいいのでは」。

 ああ、まさに! ということで2021年の初回は、3冊ほどまとめておススメを挙げてみたい。

食事に味わいが消えると人はどうなる?『食べることと出すこと』

 まず『食べることと出すこと』(医学書院)から。言うまでもなく、食べたら人間“出す”わけだが、著者は大学生のとき潰瘍性大腸炎という難病にかかり、ひどい下痢が頻発、食べるものが徹底的に制限されてしまう。そう、「食べること・出すこと」に大きな困難を抱えたわけである。そんな闘病生活は実に13年にもおよんだ。

 入院して始まったのが1カ月以上もの絶食。点滴で栄養補給はされるものの、口からものを食べない生活が続くと人間どうなるのか? 味わいというものが絶えると人は何を思うのか?


『食べることと出すこと』頭木弘樹 著

 発症からここに至るくだりでものすごく引き込まれる。絶食明け、最初に食べたものはヨーグルト。「口の中で爆発が起きた!」という描写に、私は『奇跡の人』の「ウォーター!」のシーンが思われてならなかった。

 潰瘍性大腸炎という病気は人によって程度にかなり差があり、著者の頭木さんは相当重病だったよう。食べられるものといえば、13年間ほぼ「豆腐と半熟卵とササミ」だったというのも想像を絶する。ほかのものを口にするとまた下血を伴うようなひどい下痢が起こるかもしれない……。そんな事情を、なかなか他人は理解してくれない。病気によって、社会的な食コミュニケーション(会食やパーティ、お見舞いの差し入れ、ちょっとした打ち合わせのお茶でさえも!)に加われなくなってしまった彼。これもまたひとつの「闘病」なのだ。

 とにかく多くの気づきを与えてくれる本だった。私たちが無意識に病人の方々へやっているかもしれないハラスメントを、本書は教えてくれる。そして闘病記ではあるが、徹頭徹尾そこはかとないユーモアと淡々とした距離感があり、つらい内容でも悲壮感はごく薄い。また頭木さんは比喩引用の名手で、体験したつらさや悩みを何かに例えるのが実にうまいんである。316ページと厚い本で2,000円(以下、すべて税別)するが、熱烈に薦めたい一冊。

バー・オクトパス