白央篤司の「食本書評」

『いつか中華屋でチャーハンを』『バー オクトパス』フードライターが“猛烈にオススメ”する3冊

2021/01/11 21:00
白央篤司

飲み好きの思いを描写する『バー・オクトパス』

 あと2冊はコミックを。

 以前にも紹介した漫画家でイラストレーター・スケラッコさんの『バー・オクトパス』(竹書房、750円)は、なんとも気持ちを穏やかにしてくれる本で、病禍の世が続く現在、ひとときの清涼剤としてありがたかった。

『バー・オクトパス』スケラッコ 著

 海の中のバー「オクトパス」はその名のとおり、タコのマスターが営んでいる。主人公の人魚(OLさんという設定)が、だんだんと店のなじみになっていくさまがいい。

「理由はうまく言えないけど、ここでぼんやり過ごす時間が好き」

 そんな思い、飲み好きの人は誰しも体験していると思う。“ぼんやりと何をするでもなく、好きな店にたゆたう愉(たの)しさ”がとてもうまく描写されている。


 ほのぼのとした世界がひねもすのたりと続く中、最後に海中に嵐がおとずれ、物語が大きく動く展開が感動的。全然違う内容だが、映画『フィツカラルド』で船が山を行くような壮大なファンタジーを私は感じた。

続編、熱烈希望『いつか中華屋でチャーハンを』

『いつか中華屋でチャーハンを』増田薫 著

 『いつか中華屋でチャーハンを』(スタンド・ブックス、1,600円)は、読み終えて猛烈に腹がへる1冊! 著者は「何かのネタになるかと思って」と、中華料理店で「カレーかオムライスがあったら絶対食べる」というルールを自分に課していた人。

 大阪のあんかけカツ丼、長崎のバンメンなどローカル進化系のもの、各店で独自改造されているオムライスや麺ものなど、ただ食べ歩いて紹介するだけではなく、なぜそれらが生まれたのかを真摯に、そしてほどよい軽さをもって推察していく。

 その加減がとーってもいい。なにより、絵柄に妙なのどかさと「おかしみ」があって、たまらなくホガラカな気持ちを与えてくれる。本作が初の漫画作品とは信じられない。続編、熱烈希望。

 あ、カバーを取った表紙も雰囲気があって素敵なので、ぜひ見てみてほしい。


白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『 自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

最終更新:2021/01/12 15:30
バー・オクトパス