【番外編】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

フランス女性はステイタスを「腹」でアピール!? 貴婦人の“戦闘服”、知られざるファッション事情【ヴェルサイユの女たち】

2020/11/07 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

貴族の女は腹で勝負! ドレスの腹部で競い合う

――こ、これは……。小林幸子の新作パフォーマンスといわれても納得しそう。さすが天才ヘアメイクアップ・アーティスト、人並み外れた感性の持ち主だったのでしょうね。

堀江 髪形=自分の主張という考えは現代にもありますが、18世紀後半のフランス貴族社会ではよりダイレクトなメッセージ性が喜ばれたようです。フランスの軍艦が活躍したのを祝うために、頭の上に軍艦のミニチュアを載せてしまう……とかね(笑)。

 複雑な髪形を瞬時に作り上げるレオナールの手さばきはあまりに軽やかで、ほかの同業者の追随を許さなかったといわれます。セットに使われたのは「髪粉」。しかし成分は、小麦粉です。

 ヘアワックスが当時はないので、水で濡らした髪に小麦粉をまぶし、それをコテ(現代でいえば棒状のヘアアイロン)にまきつけて熱を加える。ガチガチに固まった髪の束を、今度は毛先から逆方向に梳で解いて、ボリュームを出す。それを素早くまとめ上げ、戦艦などを載せて出来上がり! というわけでした。こういうことを毎回していたのです。

――小麦粉って、本当にパンの材料になるあの小麦粉ですか?


堀江 そうなんです。フランス革命の前は、凶作が続いて小麦の収穫量が減っているのに……、そりゃ庶民には怒られますよね。よくわからないことにフランスの王族・貴族はお金をかけすぎました。

 意外といえば、貴婦人のドレス。『ラ・マキユーズ』はフィクションなんですけど、衣服のデザインもここは譲れないという部分があって、構造的な部分からお話することもありました。たとえば……ロココ時代の貴婦人のドレスで一番高価だったパーツってどこかわかりますか?

――どこだろう。ボタンに宝石を使ったと聞いたことがありますが……?

堀江 しかし、正解はおなかの部分で、「ストマッカー」と呼ばれるパーツでした。貴婦人にとってドレスは他人に自分のステイタスを誇示するツールで、一種の戦闘着。ストマッカーは実物を見ればわかるように、高価なレースや絹のリボンなど、てんこ盛りなのでした。

緑のローブに、リボンで飾られたピンクのストマッカーを合わせているフランス国王ルイ15世の公式寵妃。……つまり、公認の愛人であったポンパドゥール侯爵夫人。フランソワ・ブーシェ, Public domain, via Wikimedia Commons

――金太郎の前掛けみたいな、このわずかな面積の部分ですか?


堀江 そう! でもなぜストマッカーを使うのかには理由がありました。ヴェルサイユ時代のドレスについては、往年の浜崎あゆみが『NHK紅白歌合戦』で着ていたアレを念頭に、「バルーンスカートのドレス」などとわれわれは言っていますが、正式名称は“ローブ・ア・ラ・フランセーズ”。直訳すれば、フランス風ローブです。

 ローブとは、いわゆるガウンですね。ローブを羽織っても、胸~おなかの部分は空いてしまって下着が見えるので、この部分を隠すべく、あてがわれたのが例のストマッカーという別売り部品だったのです。

――別売りなんですね。

堀江 思えば着物の帯みたいなものですね。帯が往々にして最も高価ですけれど、そこも少し似ているかも。ちなみにストマッカーは、ローブにピン留めしなくちゃいけません(笑)。しかもヴェルサイユのエチケットには、「太陽王」ことルイ14世時代以来、貴婦人は1日3回、ドレスを総替えしなくてはならないというものがありました。

 こういうルールが山のようにあり、その煩雑さがイヤがられ、ヴェルサイユにはもともと少なめだった貴婦人の姿は時代とともに消えていき、マリー・アントワネットの時代には儀式やイベントの時以外、男性貴族の姿さえマバラになるほどに過疎化が進んでいたのです。

ラ・マキユーズ〜ヴェルサイユの化粧師〜 1