フランス女性はステイタスを「腹」でアピール!? 貴婦人の“戦闘服”、知られざるファッション事情【ヴェルサイユの女たち】
サイゾーウーマンで「日本のアウト皇室史」を連載中の歴史エッセイスト・堀江宏樹さんが、今回は「ヴェルサイユの貴婦人」をテーマに知られざるエピソードを解説! 常識では理解できない破天荒な生活をお届けします。
――今回は妃殿下シリーズ、初の海外版です。
堀江宏樹氏(以下、堀江) 僕が原案・考証で参加している漫画『ラ・マキユーズ ヴェルサイユの化粧師』(KADOKAWA)のコミック第1巻発売を記念し、知られざるヴェルサイユの貴婦人ライフをテーマにお話していきます! 突然ですが、18世紀後半のフランス・ヴェルサイユ宮殿にトイレはいくつあったか、ご存じですか?
――えーっと、10個くらいはあったのではないですか?
堀江 正解はたった2つです。マリー・アントワネット王妃と、フランス国王ルイ16世の専用トイレ。他の人はみんな、おまる使用です(アルフレッド.フランクリン『排出する都市パリ』悠書館)。そして、おまるの中身の処理だけでなく、ご主人のお尻を拭くのも召使いたちの役目でした。
――ヒエッ……そんなウワサもありますが、本当だったのですね。
堀江 ヴェルサイユ宮殿には奇怪なルールが数多ありました。アントワネットが逃げ出したくなるのも当然に思える、おかしなルールです。
それにしても、自分のお尻も拭かない貴婦人たちなのに、メイクだけは主に自力で行っていた……と聞くと、ちょっと違和感ありませんか?
――そうですよねぇ。お尻は自分でやるから、面倒なメイクのほうを召使いにやってもらいたいです。化粧がダルくなかったんですか?
堀江 僕なりに考えた時、当時の化粧品は、現代日本とは比較にならないくらい、シンプルだったことが理由ではないかと思ったのです。
18世紀フランスの化粧品にはまだ、白粉(おしろい)と口紅くらいしかラインナップがありません。それも白粉といえば、鉛に酢の入った高温の蒸気を当て、変質させた鉛白(えんぱく)が主成分で用いられているシロモノで、これは毒。中毒になり、病みわずらってから死に至ることもあったとか。