『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』ひたすらに淡々と“薄情”、誰にもできない仕事「レンタルなんもしない人」

2019/09/17 18:59
石徹白未亜

 NHKの金曜夜の人気ドキュメント番組『ドキュメント72時間』に対し、こちらも根強いファンを持つ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。9月15日の放送は「なんもしないボクを貸し出します ~『レンタルなんもしない人』の夏~」。「何でもする」便利屋とは真逆の「何もしない」を仕事にしている「レンタルなんもしない人」。彼は何者で、また、彼に来る依頼とはどのようなものなのか。

『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

あらすじ

 フォロワー約23万人の「レンタルなんもしない人」こと森本祥司、35歳(以下、レンタルさん)。彼のTwitterのプロフィールにはこうある。

「なんもしない人(ぼく)を貸し出します。国分寺駅からの交通費と飲食代等の諸経費だけ(かかれば)ご負担いただきます。飲み食いと、ごくかんたんなうけこたえ以外、なんもできかねます」

 レンタルさんには番組内だけでも、「掃除をついついさぼってしまうので、部屋の掃除をする間、家にいてほしい」「愛想笑いするクセを直したく真顔で話す練習台になってほしい」「最近うまくいっていない彼氏と会うとまた喧嘩しそうなので、今日は一緒に過ごしてほしい」「自分の見た夢の話を聞いてほしい」「自分から体臭がにおっていないか確認してほしい」などの依頼が寄せられる。

レンタルさんの収入を推測

 「レンタルなんもしない人」の事業は基本、交通費や飲食代など、実費のみの支払いになる。中には「おふせ」と書いた銀行封筒に2,000円を入れ、レンタルさんに渡していた人もいたが、皆がそうしてくれるとは限らないだろう。


 果たして、レンタルさんはどう金銭を得ているのか? 番組内では、貯金を切り崩しながら、イラストの仕事をしている妻の稼ぎで生活している、とナレーションで触れていた。一方でレンタルさんは本を出版しており、印税収入があることも紹介された。

 ここではいやらしくレンタルさんの印税額を推測してみたい。まず、「本を出せば儲かる」自体は大きな誤解だ。世の中の9割の本は初回の印刷部数もさばけず売れ残る。このような状況ではさっぱり儲からない。しかし、レンタルさんのTwitterを見ると、出版した3冊の本のうち1冊が発売3日で3刷(1回の印刷じゃ売れに売れて追い付かず、3回刷った)と紹介されていた。

 なお、印税率10%(※)の本体価格1,000円の本が1万冊売れたら、著者には1,000円×10%×10,000冊=100万円が入る。3日で3刷にもなった本なら1万冊は刷っているはずだ。これが10倍、10万冊売れれば印税も1000万円だ。ただし、「漫画以外の本が10万冊売れる」ことは激レアと言っていいだろう。

 印税が著者に入るのは出版社によって異なり、結構先になるケースもある。Amazonを見る限りレンタルさんの本はすべて今年の4月以降から出されているため、「貯金を切り崩しながら妻のイラストの仕事で食べている」も事実なのだろうが、印税が今まさに入ろうとしているのも事実だろう。

 こうして計算してみたのは「レンタルさん、ああ見えて稼いでやがるぜ」という揶揄の意味ではまったくない。直接の利用者から金を取らずしても稼げるのはすごいことだ。これが「レンタルさん」を認定資格制度にして、半年通う週1のスクールを開講し、月額制のオンラインサロンを開いて、ノウハウをnoteの有料記事で公開して……みたいなことにしたら、一気にフォロワーが離れてしまうだろう。そういう“生臭み”“いやらしさ”がないからウケているのだ。


 ※ちなみに印税率10%は「いい方」だが、フォロワー23万人というレンタルさんの宣伝力を見越し、10%で推測してみた。なお、印刷や流通のコストを抑えられる電子書籍の印税率はもっと高い。

スティーブ・ジョブズ