『ザ・ノンフィクション』レビュー

フジ『ザ・ノンフィクション』とNHK『彼女は安楽死を選んだ』:難病女性が選択する生死

2019/06/11 17:01
石徹白未亜
『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

 NHKの金曜夜の人気ドキュメント番組『ドキュメント72時間』に対し、こちらも根強いファンを持つ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。6月9日放送のテーマは「それでも私は生きてゆく」。難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症した美怜(37歳)が、徐々に自由が利かなくなる体を抱えつつも、外に出て人と会い活動的に生きる日々を追う。

あらすじ:29歳で全身の運動神経が動かなくなっていく難病「ALS」を発症

 全身の運動神経が徐々に機能しなくなっていく難病、ALS。国内には患者が9,636人いる。横浜国立大卒で地域活性の仕事をバリバリ行っていた美怜は29歳でALSを発症し、2年で歩けなくなり車いす生活になる。その後も、胃に穴を開けて直接栄養剤を送る「胃ろう」をつけるなど、体の自由は年々利かなくなっていくが、美怜は飛行機乗ってALS患者に会いに行ったり、好きなバンドのライブに30回も行くなど活動的に日々を過ごす。

美怜が恐れるALSの「閉じ込め状態」とは

 取材は美怜がALSを発症し3年がたった2016年から行われた。取材当初から美怜は手足を動かせず、食事は口元までスプーンを持ってきてもらい、喉には発声器を着け会話をしていた。

 19年の春まで何回か取材が重ねられていく中、美怜の症状は目に見えて重くなっていく。自力で食べ物を飲みこむことができなくなり胃ろうを装着したほか、会話も困難になったことから、文字盤を見る目の動きを読み取ってもらう方法に代わった。番組の最後では顔の筋肉も弱まり、取材当初にはよく見られた笑顔がなくなり、文字盤でのコミュニケーションにも時間がかかるようになった。

 美怜の父親はALSを残酷な病気であり、見ているだけしかできないと話していた。視聴しているだけの私が痛ましいなどと、とても言えないような重い現実だ。


 ALSの症状がさらに悪化すると、目を開けることもできなくなるという。真っ暗な中、体を動かせず、話すことも表情を作ることもできず、外界に対し自分の意思や気持ちを伝える手段がまったくないのに、本人の感覚と思考といった「意識」だけはしっかりしている。この「閉じ込め状態」を美怜は「一番怖い」と恐れていた。

 番組の中で、美鈴は「自分で自分の終わりを選ぶ権利があってもいいんじゃないかな。閉じ込め状態の中でずっと生きていかなきゃいけないのはつらい」と話していたが、番組の最後には「私はこんな体ですがALSが治ることを信じています。そのために必死で生きています」と文字盤を使って話していた。どちらも本心なのだろう。

 美怜はALSを発症してから4年後に一度、重大な決断をしている。筋力が低下し呼吸がしにくくなったため、喉に穴を開け人工呼吸器をつけるか、つけないかの選択を迫られたのだ。呼吸器をつけないと余命は3カ月であり、美怜は呼吸器をつけることを選んだ。なお、ALS患者の約7割が、その手術をしないで死を迎えるという現実があるという。家族の負担が増えるのが大きな理由の一つだともいう。なお、一度呼吸器をつけたのちに「閉じ込め状態」になると、日本においてはその後、呼吸器を外すことはできなくなる。 日本では安楽死が認められていないためだ。

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