『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』ひたすらに淡々と“薄情”、誰にもできない仕事「レンタルなんもしない人」

2019/09/17 18:59
石徹白未亜

「絶対世に出たい」レンタルさんは意外と野心の人

 フォロワー23万人という、ネット界の有名人。やっていることはそこにいるだけであり、資格や経歴は不要――そんなレンタルさんを見て、「よし俺も」「私も」という2匹目以降のどじょうを狙う第2、第3のレンタルさんも今Twitter上に多数いると番組で紹介されていた。

番組内でレンタルさんをレンタルし、自分の夢日記をレンタルさんに読ませた26歳女性「よもぎ」も自身を「レンタル話を聞く人」として売り出し中だ。ただ、よもぎをレンタルした男性客は「頭にゴミがついてるよ」と、よもぎの髪に触れてみせた。あくまで私個人は、そこに男性客の「触れたい」という意図を感じてしまった。若い女性が男性相手に「レンタルさん」的仕事をすると、大なり小なりこの要素はつきまといそうだ。

 本家のレンタルさんは35歳の男性。中年太りと無縁の、すらっと細身で、清潔感のある青年だ。35という年齢もいい。25歳の男性なら、まだ自然に活力がほとばしるので「何もしない」仕事内容とマッチしないし、またこれがもっと年齢が上になると、容貌的にはどうしても衰えるだろうし、利用者側が気軽に呼べなかったり、気を使って楽しくなくなってしまうだろう。

 またレンタルさんの希少性は、とにかく“雰囲気”だ。男性がつい陥りがちな「俺は俺は」のアクや押しの強さはなく、一方、そうではない男性が抱く「どうせ俺なんて」といういじけた感じもない。レンタルさんはフラットなのだ。その平坦さと、なにもしないというサービスが合致しているように思う。

 しかし、番組が進むほどレンタルさんは意外と野心の人であることがわかってくる。レンタルさんは「それを売りにしたくないが、たぶん(自分は)発達障害なんだと思う」 と話しており、大阪大学大学院卒と勉強はできたが文化祭などの行事はさっぱり役に立たず、その後就職しても職を転々とする。みんなができる普通のことが自分にはできなかったという強いコンプレックスを抱えていて、コピーライターや構成作家の塾に通ったりと模索を続ける。妻に出した昔の手紙では「絶対世に出たいですね」と切実な思いを綴っている。


感情や野心が見えず、ひたすらに淡々と薄情

 レンタルさんの不思議なところは、そのかなりギラギラとした野心が見た目や雰囲気に驚くほど出ないところだ。見た目に野心が出ていたら、女性は「家で掃除する様子を見ていてほしい」なんて気軽に自宅に呼べないだろう。また、番組で見る限りレンタルさんが「うんざりしてそう」「退屈そう」な様子は見えなかったし、一方で「前のめり」な様子も一切なかった。「見た夢の話を延々と聞かされる」という地獄のような依頼すら淡々と受けていた。

 さらに、レンタルさんはレンタルなんもしない人の仕事が軌道に乗り「世に出る」ことに成功すると、家庭よりも仕事を優先したいと、妻と幼い子どものいる家から“淡々と”出ていってしまう。この薄情な行いは、自身のイメージを損なう大打撃のようにも思えるが、一方でそれを隠さずTwitterでつぶやき、それでも依頼は途絶えない。「薄情なことをしている自覚はあるが、それが何か?」という居直りではなく、ただ淡々と薄情なのだ。これはなかなかできることではない。

 レンタルさんは今、「自分の自然な状態」と「職業」が合致していて、さらにそれが受け入れられているというとんでもなく幸福な状況だ。まさに天職だが、レンタルさんの見た目の小ぎれいさと、“淡々と”を貫ける独特な考え方に依るところが大きい。やっていることは何もしないことと簡単そうに見えて、なかなかこれはほかの人には真似できないだろう。

 次回のザ・ノンフィクションは『半グレをつくった男 ~償いの日々…そして結婚~』。最凶の半グレ集団「怒羅権(ドラゴン)」の創設メンバー汪楠(ワン・ナン)は現在受刑者や出所者を支援する活動を行っている。改心のきっかけと活動の日々を追う。

石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂


最終更新:2019/09/19 09:01
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