「聞こえない人をわかって」とは思わない! ろうの映画監督が語る、健常者との“壁”
劇中にも使われた横断幕を持った今村監督■「コミュニケーションが難しいのは耳が聞こえないからではない」
――旅の後半にオーストラリアの青年ウィルが登場し、耳が不自由な彼がいろんな人と楽しそうに会話する姿を見て、監督は衝撃を受けていました。今村 ウィルは、耳が聞こえないし、日本語もカタコトだし、筆談もできないのに、健常者の方たちの輪の中に自然に入って行けるんですよ。それを見て、堀田さんが言っていた「コミュニケーションが難しいのは耳が聞こえないからではない」という言葉が理解できました。ウィルとの出会いは大きかったですね。私はウィルより日本語がわかるし、読み書きもできるから、もっとみんなとコミュニケーションが取れるはず。コミュニケーションがヘタでも練習すれば直りますよね。うまくなるように練習と経験を重ね、話題を多く持つなど工夫すればいいんです。「聞こえないから無理」というのは、自分は努力しなくてもいいと決めつけてしまうこと。耳が聞こえないのは治らないけど、コミュニケーションは上手になれると思いました。
――ウィルから学ぶことも大きかったのですね。
今村 いい出会いだったと思いますが、だんだんウィルと一緒にいることが苦しくなることもありました。すぐに社交的になれるわけはなく、なかなかみんなの輪に入っていけなくて、ウィルに簡単にできることが自分にはできない、ということが苦しかったです。もう離れたいという気持ちになりました。「1人で走りたい」と言うと、堀田さんに「あなたを1人にはできない。ウィルも一緒だ」と言われて。自分の気持ちをウィルにも打ち明けました。
――監督の葛藤は映画からすごく伝わりました。なりたい人物像が目の前にいると、「自分には、なぜできないのだろう」と自己嫌悪になりますよね。
今村 沖縄を出発するときは、ゴールの宗谷岬(北海道)に着くときには、きっとコミュニケーションが苦手な自分を克服して、その答えが見つかっているはずだと思っていたけど、実際には何もできていない……という気持ちが大きかったです。ただ旅をするだけではダメで、やはり自分から行動に移していかないと何もつかめないんですよね。
――カメラを回して時間が349時間31分にもなったようですが、編集作業は大変だったのでは?
今村 私のダメなところや堀田さんに叱られてばかりの映画になっていますが(笑)、全体を見れば楽しい場面もたくさんあったんですよ。でも堀田さんに「あなたが今回の旅で、できなかったという気持ちが大きいのなら、ありのまま出した方がいいんじゃない?」と言われ、私もそうだなと思いました。楽しい場面をつないで映画を作ることもできるけど、それは自分の気持ちに嘘をつくことになる。カッコ悪いけど、ダメなところを全部出そうと。編集作業はつらかったですよ、自分で自分の体を麻酔なしで手術しているような気持ちでした。でも今回は自分の中の膿を出す時期だと思えたので、やり遂げることができました。
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