オシャレで自然なライフスタイルで、生々しい夫婦問題にフタをする「nina’s」のお得意芸
結婚しても出産しても「女」でいること、慣れない子育てと仕事の両立に喘いでいても、「主人」を後回しにはしないこと。本来女とはそういう生き物であるということを、「月の満ち欠け」や「必然」などという言葉で補完するSHIHO。読者もまた、夫婦生活に伴う数々の不条理と戦うよりは、SHIHO的なわけのわからないものに従ったほうがラクだしオシャレっぽいと思ってしまう。「nina’s」の罪とはこうした思考停止の罠にあるのではないでしょうか。
■「婆ぁびー」についてはスルーで
さて、続いて紹介するのは「連載 ユキナんち。Special」。現在の「nina’s」でトップの露出を誇るタレント木下優樹菜の連載で、今号はスペシャルバージョン。実子ではなく外国人子どもモデルと登場するママタレが多い中、この人にはそういう配慮は一切ありません。夫・藤本敏史似の長女と生まれたばかりの次女を携えて堂々の3ショットを披露しています。
以前「nina’s」で長女出産時に育児ノイローゼにかかったことを告白した木下。2人目を生んだ現在は「2人目の余裕? いっぱいいっぱいで時間が過ぎていくんじゃなく、このかわいさは今しかない! って、楽しみながら子育てできてる。がんばりすぎずに、がんばれてるかな」と落ち着いた育児をしている様子。
“売られたケンカは即買い”というスタイルもあって、ネットではしばし炎上する木下ですが、インタビューを読んでいるとなぜ今の「nina’s」でこの人がウケているのかがわかってきます。たとえば実母に対するこんな一文。
「婆ぁびー(実母)もよく手伝いに来てくれて、ホント助かってる。もう、感謝しかない。頭上がんない。本当にね、昔のことは反省してます。1人目産んだときも夜中に泣きながら謝ったんですけど、2人目を産んでまたさらに、あの頃はすみませんでした、って」
いいママをアピールすることで過去の遊興の日々をなかったことにする経歴ロンダリング系でもなく、もしくは「ママになってもクラブとか行っちゃう系」をゴリゴリ押し出すMEGUMI系でもなく、等身大ヤンキー感を残す木下。もちろんただのヤンキーではなく、小金をつかんだヤンキー(生活の心配のないヤンキー)。美貌のヤンママにまとわりつきがちな薄幸感が払しょくされたセレブヤンキー木下は、「実はナチュラルフードとかヨガとかよくわからない」読者たちに絶妙な安らぎを与えるのでしょう。
「この前のクリスマスパーティーのとき、ママはママで集まって話をしていて、みなさんきちんとしていて、オトナな口調が飛び交って、自分の話し方がだんだん恥ずかしくなっちゃって……このままじゃダメだな、と思ったのをきっかけに、旦那のことを『主人』と言えるようになりました。公共機関への電話で『うちの主人が……』みたいな。でもね、こういう取材のときや、普段はやっぱまだ恥ずかしい(笑)」。SHIHOと木下はまったく別な方向からやってきて、「主人」で合流する。これぞ「nina’s」におけるママタレ基準。言葉の意味などどうでもよく、「主人」と呼ぶことが「幸せな家庭」の住人になることとイコールになる世界です。
決して自分は主にならず、あくまで家庭を支える側。しかしそんなママって素敵やん? という「nina’s」の価値観をまざまざと見せつけられた今号。「ものづくり大国ニッポン」というフレーズを多用する人に抱くうさん臭さを、クリエイティブ至上主義のこの雑誌にも感じてしまうのですよ。
(西澤千央)