サイゾーウーマンカルチャー漫画レビュー『クローバー』のOL主人公に不満爆発 カルチャー [連載]マンガ・日本メイ作劇場第29回 不倫OLの悲哀を尻目に、主人公の「被害妄想」ネタで引っ張る『クローバー』 2013/02/11 16:00 カルチャーマンガ・日本メイ作劇場クローバー稚野鳥子 『クローバー 1』/集英社 OLは大変なのだ。事務職なんかで会社に入った場合、お茶汲みだのコピー取りだの、楽かもしれないけど達成感も面白みもない仕事を延々とやらされたり、社内恋愛のライバルになっちゃって同僚に意地悪されたりする。 そういう仕事を毎日やってて、ぶっちゃけ10年後、自分が会社で活き活きと仕事をする姿が想像できるだろうか。 そんなOLたちは、夢を見る。「どうにかいい男を見つけて、さっさとこんな厳しい環境からサヨナラしたい……」。そうして男に救いを求めるも、世の中、少女マンガに出てくるようないい男ばっかりじゃないから、彼女たちの夢はいとも簡単に破られてしまうのである。 『クローバー』(集英社)は、けなげに生きるOLたちの、等身大の奮闘記だ。仕事にやりがいを見いだせず、かといって男との恋愛も平坦ではない。登場するOLたちは、みなひどく男たちに悩まされている(そんであんまり仕事しない)。 例えば、上司と不倫をして振られてしまったり、年下のカワユイスポーツマンに好かれてみても、付き合えばやっぱりすれ違ったり。付き合った男は浮気者で、当てつけに既婚者と寝てみたらそのまま関係が進んでしまい、子どもまでできちゃったり。しかもその既婚者は優柔不断で、離婚もしなければ自分を選んでもくれなかったりするのだ。 『クローバー』は、OLたちに襲いかかる、数々の恋愛試練をこれでもか、これでもかと提示してくる。けなげに生きるOLたちは、登場人物たちに共感し、厳しい現実から逃れて安らぎを得たことだろう。 ……しかし、よーく見てみると、気がつくことがある。恋愛の悲喜こもごもを描くこのマンガ、「悲」の部分――男で痛い目に遭ってるのは、全員脇役。唯一、エリートで一途な男や、芸能人という関わり合って楽しそうな男とばかり恋愛沙汰になるのが、主人公の鈴木沙耶なのである。 沙耶は、中学生の頃の樋野くんとの初恋を、OLになってまで引きずってウブな生活をしていたが、コワーイ上司の柘植さんに告白され、恋愛に対するリハビリを経て、晴れておつきあいすることになる。柘植さんてのは、会社でも将来有望な早稲田卒のエリートで、OLたちからもじゃんじゃん狙われている憧れの存在である。 そんな柘植さんとのおつきあいも一段落すると、今度は沙耶にハルキというイケメンが言い寄ってくる。なんと彼は樋野くんの双子の兄であり、実は超有名な俳優だったのである。しかもこの男、撮影を放り出してまで沙耶に付き添ったりするほどの献身ぶり。 沙耶の女友達たちが、不倫や不実な男に悩まされている間、沙耶だけが、「柘植さんの仕事が忙しくてあまり会えない」とか「ハルキにプロポーズされちゃったどうしよう」とか、ほかの女友達らに比べたら鼻くそのような小さなことでウジウジするんである。 あのさあ、どっちの男も、自分にはものすごく一途なんだからいいじゃないの。女友達たちの苦労に比べたら、あんたの悩みなんか妄想レベルですよ。ちょっと女が言い寄ってきただけで、柘植さんはインポなんじゃないかと思うほどの誠実さで女にまったく手を出さないでしょ。なのに自分でトラブルねつ造していちいち大騒ぎしないでもらいたいよ。 なのに「柘植さんが浮気してるかもしれない」ネタで何度も何度も何度も何度も! わーわー騒いでるけど、全部妄想だから。だけど、沙耶を等身大の自分だと思う読者にとっては、悩みを代弁してくれる神のような作品なのである。 と、酸いも甘いも噛み分けた女からは非常に不満の多いマンガ『クローバー』。まあでも、恋愛ごとは、小さなことを大きく騒ぐくらいが、いちばん楽しいんですけどね。 ■メイ作判定 名作:メイ作=2:8 和久井香菜子(わくい・かなこ) ライター・イラストレーター。女性向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。 最終更新:2014/04/01 11:25 Amazon 『クローバー 1』 浮気妄想だけで24巻引っ張った大作です! 関連記事 鬼との禁じられた恋を描く『銀の鬼』、大掛かりなテーマに潜む“うっかり”の罠「常識とは何か」を突き付けられる、『えっちぃ放課後』の所構わぬヤリっぷり「あばたもえくぼ」で、濃厚エッチシーン以外はおざなりの『みだらなご主人様』パンツで××したり、●●で街中歩いたり......伝説のマンガ『げっちゅー』変人がメイ作を作る? 『ガラスの仮面』のキャラクターを見直してみよう 次の記事 すれ違う男女を描く『サヨナライツカ』 >