サイゾーウーマンカルチャー漫画レビューエッチ以外はおざなりの少女マンガ カルチャー [連載]マンガ・日本メイ作劇場第22回 「あばたもえくぼ」で、濃厚エッチシーン以外はおざなりの『みだらなご主人様』 2012/06/03 16:00 カルチャーマンガ・日本メイ作劇場 『みだらなご主人様』(叶のりこ、講談社) ――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてけぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女マンガ史にさんぜんと輝く「迷」作を、ひもといていきます。 「あばたもえくぼ」という諺がある。好きな人のものなら、汚らしいニキビだってチャーミングなえくぼに見えるよ、ということらしい。「見えねーよ」と思わずツッこみたくなるけれど、確かにある部分が自分のツボにはまってると、他は許せるものである。例えば「時代物衣装が好きだから、登場人物がドレス着てる映画はそれだけで評価が高くなっちゃう」とか「京都が好きだからどんなしょっぱい寺院があっても気付かない」とか。 『みだらなご主人様』(叶のりこ、講談社)は、主人公・愛花が人間ドックで入院した母の代わりに、大企業の独身御曹司・桐生さんの家に家政婦になるところから始まる。この設定だけで読者の胸は期待でいっぱいだ。そしてその期待通り、初対面から桐生さんはその変態っぷりを発揮してくれるのである。 桐生さんはイケメンで、服飾部門を一手に仕切るヤリ手男らしい。家に来た愛花に目の前で着替えさせたり、「服のイメージがどーもピンと来ない。おまえの体でつかませてもらうぞ」と体中を撫で回したり、ナマ乳を触ったりと、ヤリたい放題。愛花もなんだか納得して黙ってヤラれてんじゃないよ。 そして大方の予想通り、愛花の母親は人間ドックから退院できなかったのか、愛花がそのまま桐生さんの家政婦に収まることになる。愛花は相変わらず愉しく桐生さんとイチャイチャしているので、母親の体調が心配なのは読者だけである。 この作品の展開はだいたい似たような構成で、1)仕事を頑張ろうとする愛花、2)行き違いで桐生さんの気持ちが信じられなくなり泣いて暴れる愛花、3)飛んでやってくる桐生さん(これがスーパーマン並みにピンチの場所と時間を的確に把握して現れる)、4)愛花と桐生さんがエッチをしてる最中に話が終わる、というのが1話の流れ。 この美味しいエッチシーンがすごい。メガネのフレームで乳をつんつんしたり、秘書に気を遣わせて先に帰らせてまで社長室でイチャイチャしたり、ビルの狭間で立ちヤリしたり、もう自由奔放に。 まあでもこのあたりまでは、少女マンガのセオリーにどっかりと乗っかっている。周りは主人公たちのセックスにたいてい協力的だ。よく分からない理由で主人公が突然モデルになる、なんてことも少女マンガでは日常茶飯事。しっかり王道を行く部分を保ちながらも、一方で大っぴらに型を破っているところが、このマンガのメイ作なところなのである。 どのあたりが型破りかといえば、全4巻中、愛花に言い寄ってくる男がふたり登場する。「辛そうな君をほっとけない。オレの処へおいで……」とかいいこと言って熱烈に言い寄ってきてくれる。ところが、愛花の体についたキスマークを見るや、「なあんだ、あいつにはヤラせてやってるのかよ、だったら俺にもやらせろーっ!」と突然猛獣化するのである。なんとふたりとも。おい今、お前のせいで辛いぞ。お前の純愛はそんな程度か。 もちろんこうした危機には、桐生さんがすっ飛んできてくれて、愛花のエッチの相手は桐生さんにすり替わるのだけど、このふたり、なんだか毎回同じようなことでもめてるのだ。そもそもふたりが惹かれ合う理由が全く分かんないし、2話目にはもう相思相愛らしいし。 ふたりの馴れ初めがその程度だからか、どんなに話が進んでも、ちっともふたりに信頼関係や深い理解が生まれないのだ。交際相手との心の距離の近づきを描くのが少女マンガの基本であるはずなんだけどなあ。なので毎回、愛花がガタガタ言って泣き出す度に、「なんでこんな面倒くさい女と付き合ってんのかな?」と静かな疑問が湧くのである。ねえ、なんで? でもまあ、たぶんふたりが惹かれ合った理由はともかくとして(たぶん愛花は金持ちのイケメンが好きと見た)、好きになっちゃったらもう、あばたもえくぼ、ささやかなことは気にならない、ということなのらしい。だって、最後まで愛花の愛する桐生さんの下の名前が出てこないのだ。ヒーローのフルネームが出てこないって、バッサリ切り捨ててるけど、“あばたもえくぼ”以外の情報は、どうでもいいみたい。 あれこれささやかに面白いシーンがたくさんあるこの作品ですが、3巻の、風邪で寝込んだ桐生さんに襲いかかる愛花と、桐生さんの「オレを犯せ」の文法がおかしい名ゼリフ(犯すってのは、本人の意に反することをすることなわけで、この動詞を命令形にするのはいかがなものか)は、何はともあれ必見であります。 ■メイ作判定 迷作:名作=10:0 和久井香菜子(わくい・かなこ) ライター・イラストレーター。女性向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。 『みだらなご主人様(1)』 何度読んでも、桐生さんが愛花を好きになる要因が見当たらない! 【この記事を読んだ人はこんな記事も読んでます】 ・56巻でも未完! 『王家の紋章』の乙女ゲー的世界はいつまで続くのか? ・『Theチェリー・プロジェクト』に見る、スポ根マンガ+恋愛の限界 ・パンツで××したり、●●で街中歩いたり……伝説のマンガ『げっちゅー』 最終更新:2014/04/01 11:31 次の記事 『芸能★BANG+』打ち切り説浮上 >