ドラマ俳優クロニクル

『フェルマーの料理』高橋文哉、にじみ出る「頼りなさ」を演技にフィードバックする魅力

2023/12/08 20:00
成馬零一(ライター)
ボーイズグループ8LOOMメンバーとしても活躍した高橋文哉(C)GettyImages

――『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『テレビドラマクロニクル1990→2020』(PLANETS)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、旬の若手俳優についてその魅力をひもとく。

 高橋文哉が主演を務めるドラマ『フェルマーの料理』(TBS系)は、数学と料理を絡めた異色のグルメドラマだ。

 物語は料理対決モノで、毎回おいしそうな料理が登場するのだが、数学者を目指していたシェフの北田岳(高橋文哉)が、数学的思考を用いてレシピを考案して、斬新な料理を生み出す場面が見せ場となっている。

 普段の岳はどこか弱気で頼りなく見えるものの、数学と料理に対しては強い信念を持っている。そんな岳が料理の味で相手を感動させる場面にはとてもカタルシスがある。日頃頼りなく見えるからこそ、カッコ良く映るのだ。

 弱々しくて情けなく見えるが、心の奥底に熱い情熱を秘めていて、決めるところはしっかり決める岳の姿を見ていると、高橋のドラマ初主演となった特撮ドラマ『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系、以下『ゼロワン』)を思い出す。


 2019年から20年にかけて放送された『ゼロワン』はAIを搭載した人型アンドロイド・ヒューマギアが普及した近未来を舞台にしたSFドラマだ。

『仮面ライダーゼロワン』高橋文哉からにじみ出る「頼りなさ」

 高橋が演じた主人公の飛電或人は、売れない芸人だったが、亡くなった祖父の後を継ぐ形で、ヒューマギアの開発・運用を取り扱う株式会社・飛電インテリジェンスの二代目社長に就任する。そして、社長のみが使うことができるゼロワンドライバーで、仮面ライダーゼロワンに変身。暴走するヒューマギアと戦うことになる。

 或人は「人々を笑顔にしたい」と思っている優しい青年だ。性格は明るくひょうきんな三枚目だが、非道な行いに対しては怒りや悲しみをあらわにして異議を唱える真面目なところもある。彼はどこにでもいる平凡な若者で、ヒーローとしての雄々しさが薄く、むしろ視聴者が心配になって「守ってあげたい」と思ってしまうような、か弱さや頼りなさが全身からにじみ出ていた。今考えると、その弱々しさこそが、高橋文哉の俳優としての持ち味なのだろう。

 ドラマ初主演だったが、高橋の演技は最後まで安定感があり、第1話から或人のキャラクターを完璧に掴んでいた。芸人であることを強調するため、リアクションが過剰すぎると感じる場面も少なくなかったものの「面白くない芸人」という或人のキャラクター設定が功を奏しており、場を和ませるためにしょうもない駄洒落を言っては滑る姿に、人間としての愛嬌がにじんでいた。

 SFとしてもヒーロー番組としても見応えのある作品だったが、高橋が主演を務めたことで人間ドラマとして、とても暖かい作品になったと言えるだろう。


今の立ち位置を築いた『最愛』浅宮優役

 『ゼロワン』の演技が評価された高橋は、俳優として一気に注目されるようになり、優等生を演じながら、教師を殺そうとするエリート高校生・藤原刀矢を演じた『先生を消す方程式。』(テレビ朝日系、20年)、先輩女子社員に恋する新入社員の秋葉亮を演じた『着飾る恋には理由があって』(TBS系、21年)、ヒロインのピンチを助ける社内情報に詳しい清掃アルバイトスタッフの青年・山瀬修を演じた『悪女(わる) 〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜』(日本テレビ系、22年)等のテレビドラマに次々と出演するようになる。

 今の高橋の立ち位置は、若手イケメン俳優のホープで、演じる役も『君の花になる』(TBS系、22年)で演じたボーイズグループのセンター・佐神弾を筆頭に、アイドル的に視聴者から愛されている青年が多い。

 中でも、大きな反響を呼んだのはサスペンスドラマ『最愛』(TBS系、21年)だろう。高橋が演じたのは、主人公の梨央(吉高由里子)の異母弟・朝宮優。当初は謎の情報屋として登場した優は、寂しそうな表情をした陰のある美少年で、ドラマファンの間で大きな話題となった。

 筆者も、こんな憂いのある美少年も演じられるのかと、驚いた。そして『最愛』は高橋にとっては『ゼロワン』に継ぐ代表作となったが、『男子高生ミスターコン2017』のグランプリを受賞し芸能界に入ったことを考えれば、『ゼロワン』の明るくひょうきんな三枚目役のほうが例外で、イケメン俳優路線の方が本道なのだろう。

 そんなイケメン俳優として注目される高橋の置かれている状況と、役柄がシンクロしていたのが、2021年に放送された深夜ドラマ『夢中さ、きみに。』(MBS)だ。

『夢中さ、きみに。』二階堂にシンクロする高橋文哉の魅力

 和山やまの同名漫画(KADOKAWA)を映像化した本作は、ミステリアスな高校生・林美良(なにわ男子・大西流星)が中心の物語と、周囲から不気味がられている二階堂明(高橋)を中心とした物語が並列して描かれたBLテイストの青春ドラマだ。

 高橋が演じる二階堂は中学の時に大勢の女子から熱狂的な好意を寄せられたことがトラウマで、高校では伊達メガネをかけて髪を伸ばすことで女子にモテないように、逆・高校デビュー。周囲に対して心を閉ざし、他人と関わらない日々を過ごしていたが、クラスメイトの男子と仲良くなったことで、二階堂の日常は少しずつ変わっていく。

 本人にとっては深刻な問題だが、異性にモテることに過剰に怯えて悩む二階堂の姿は、いじらしく、子犬のようなかわいらしさがあった。性的魅力を持て余して拗らせている二階堂と違い、俳優としての高橋は自分のかわいらしさを演技にフィードバックすることに成功している。

 弱々しく見えるが健気にがんばる高橋を観ていると応援したくなる。今後も「守ってあげたい」と感じさせる小動物的かわいさを、俳優として極めてほしい。

 

 

 

 

 

成馬零一(ライター)

成馬零一(ライター)

76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020(PLANETS)がある。

最終更新:2023/12/08 20:00