水谷豊が『相棒』の杉下右京になる、はるか前……トンチキ青春映画で演じた“汗臭い童貞”役の魅力とは?
さて、そんな水谷にとって重要作である本作の結末はというと……。それまで「トルコ風呂」「強姦未遂」「売春未遂」etc.の物騒なエピソードや、京子が海岸でヒラヒラ舞い踊って「しい公」の夢精を表現した爆笑イメージシーンなどを畳みかけた揚げ句、とんでもない肩透かしに終わる。
やけのやんぱちになって、トルコ風呂で「筆おろし」を試みるしい公を京子は引き留め、誰もいない夜の学校へと彼をいざなう。そして服を脱ぎ、「どうしても我慢ができないのなら、私を抱いて」と告げる。
「聞いたわ。フラレタリア同盟のこと」。全裸の関根恵子がまっすぐな眼差しでトンチキ・ワードを発する姿に、爆笑を抑えられない。そして、つい10分前のシーンでは「イライラしてどうしようもないんだ。女を見るとみんな裸に見えちゃって。カーッと強姦したくなり、思いとどまるのがやっとなんだ」と鼻の穴を膨らませていたしい公が、なぜか急に神妙な顔をして、大学生になるまではプラトニックな関係のままでいようと誓う。
そして学園祭当日。京子が出場するテニスの試合を応援するしい公の、多幸感にあふれるモノローグで、物語は閉じる。
「(フラレタリア同盟の中で)俺だけついに童貞のままだけど、右や左に飛び交うボールを追っているうちに、すごく幸せだなって感じちゃって」
いったい何をキメたんだ、しい公。どうしたんだ、その「賢者モード」は。さらにモノローグは、こう続く。
「というのは、空も晴れていたし、岡田も和島もサナエ(三笠すみれ)もみんないいヤツで、そのうえ京子のヤツがグッと冴えてるもんだから、俺はうれしくなって、もう少しで涙を流すところだった。きっと、ホットドッグにカラシをつけすぎたせいに違いない」
……と、なんか知らんがフツーの青春映画みたいにまとめちゃって、ハツラツとスマッシュを打つ京子のスローモーションで「完」ときたもんだ。無茶苦茶な暴れ太鼓を狂ったようにドンガラガッシャーンと打ちまくった揚げ句、最後シンバルを「シャンッ!」とやって一礼、みたいな終わり方がジワジワくる。
『新・高校生ブルース』と題しているが、この作品のどこに「ブルース」があるのかも、当然わからずじまいだ。内容が記憶に残らないので、年1ぐらいの頻度で見返しても、その都度新鮮に楽しめる。実際、筆者がそうだった。最後まで見終えて、満足するか後悔するかはさておき、水谷豊ファンなら押さえておきたい一作といえよう。