ゴミ屋敷の2階は水槽だらけ、異形の魚が悠々と泳ぎ――闇金社員が怖くなった“初現場”
散らかったままのダイニングで交渉が始まったので、急いでグラスを洗って、買ってきたばかりのお茶を入れて出すと、トネ氏の風貌を見て驚きました。
ウエットジェルでテカらせた長めのパンチパーマに、薄茶色のレンズが入った大きなサングラスをかけて、太い金のネックレスとブレスレット、それに大きな金の指輪までつけています。しかし、上下の服は、それらに不釣り合いな可愛い犬のイラストが刺繍された白いスウェット。左手首にもダイヤをちりばめた金時計をはめており、もしかしたらゴールドラッシュを表現しているつもりなのかもしれないと思いました。
その姿はヤクザにしか見えませんが、社長と対峙してからは大声を出すことなく、冷静に話を聞いてくれています。さっきまでとはまるで別人のようで、その変貌ぶりにヤクザの正体を見た気がしました。話をすること、およそ15分。納得した様子で、にこやかに頭を下げて出ていくトネ氏を見送った社長に、バールを置いて警戒態勢を解除した藤原さんが聞きました。
「お疲れさまです。社長、どうやって話つけたんすか?」
「あいつ、前にも揉めていて、債権を買ってやったことあるんだよ。だから、今回も安心しろって、そう話しただけだ」
以前にやり合ったときには、ケツ持ちに頼んで和解したそうで、それ以来、不毛な争いはしない約束をしている関係にあるそうです。
結局、担保として預かっていた小切手の一部は不渡になりましたが、自宅の賃借権を売却したことで回収は終了。現場で怒鳴っていたトネ氏の債権も、持ち込まれた債権書類一式と引き換えに事務所で決済されました。
「社長さん、今回は恩に着まっせ。今後も、よろしゅう頼んます」
その数日後。夜のニュースを見ていると、世間を大きく騒がせた殺人事件の関係者として逮捕され、警察署に連行されるトネ氏の姿がありました。一歩間違えていたらと、ぞっとする思いをした次第です。
※本記事は、事実を元に再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)