私は元闇金おばさん

「闇金」新入社員が見た、夜逃げ社長のその後――ヤクザ登場で「自宅と工場占有」の現場

2022/07/09 16:00
るり子(ライター)
写真ACより

 こんにちは、元金融屋事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。

 勤務初日。先輩社員の愛子さんから、朝礼前に済ませておかなければいけない掃除箇所や開店準備の仕方を教わっていると、社長が出勤するなり、共に清掃中であった営業社員を集めて言いました。

「M自動車がバックレた。債権は150万。各自役割分担して、早急に保全を図れ」

 一体何が起こったのかと困惑していると、先輩が「借りたお金を返せなくなったM自動車が逃げたってこと。これから僕たちは貸した分を回収しに行くんだよ」とこっそり教えてくれました。社長の手には「不渡速報」と書かれたピンクの小冊子が握られており、そこで得た情報をもとに話を進めているようです。

 するとまもなく、営業部長の伊東さんが席を立ち、重要確認事項というタイトルをホワイトボードに書き込み始めました。債務者(M自動車)の会社概要をはじめ、社長と連帯保証人の個人情報や所有不動産、売掛先の一覧、車両などの資産状況が詳細に書き出されると、その脇に「担当」と「結果」という枠を設けて表を完成させます。


 どうやら連帯保証人は、別所帯で暮らす息子のようで、取引には関係ないだろう子どもが通う学校名、嫁の実家住所までもが確認事項とされており、少し不穏な気分になりました。

「担当の小田は、伊東と会社。佐藤と藤原は社長の自宅、鈴川と田代は保証人関係を洗え。社長本人の身柄を押さえたら、すぐに連れて来い。俺は事務所で登記書類と債権譲渡の段取りをしておくから、弁護士や他業者に介入されたら、すぐに連絡するように」

 まだガラケー初期の時代であったため、社員たちは現場までの道程を赤ペンで記入した地図を用意します。また、M自動車から150万円を回収できない場合に備えて、借用証のコピーを用意し、いつでも担保や連帯保証人を取り込めるようにと、まっさらの契約書類と朱肉のセットもあわせてバッグに入れて出動します。手早く準備を済ました社員たちが、あっという間に事務所を出ていくと、ここで初めて社長から声をかけられました。

「初日から不渡が出て、少し驚かせてしまったかな。これが毎日ってわけじゃないから、そんなに怖がらないで大丈夫だよ。みんな揃ったときに、きちんと紹介するから、それまでは先輩の愛子さんに日常業務を教えてもらうように」


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