私は元闇金おばさん

元闇金おばさんが見た「過払い金請求」ブーム――「ふざけた野郎だ」と社長は激怒するけれど……

2022/09/03 16:00
るり子(ライター)
元闇金おばさんが見た「過払い金請求」ブーム――「ふざけた野郎だ」と社長は激怒するけれど……
写真ACより

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。

「社長いる?」

 勤務2日目。夕方になると、左目に昔のタモリさんのような黒い眼帯をつけた髭の長い小柄の男が、慣れた様子で事務所に入ってきました。その風貌は見るからに怪しく、只者でない雰囲気が漂っています。見た目に圧倒されて、怖気づいて言葉を失っているうち、先輩・愛子さんが応対に出て応接室に案内されました。

「コーヒーを入れて差しあげて。社長のと、2つね」

 給湯室でコーヒーを入れ、少し緊張しながら扉をノックして応接室に入ると、帯のついた百万円の束が3つ、テーブルの上に積まれています。現金の受領と引き換えに、各物件のカギと賃借権関係の書類を引き渡しているので、占有している債務者の物件を売却したと思われました。


「これ、数えてくれるか」

 書類を避けてテーブルの端にコーヒーを置くと、社長から札束を渡され、それを数えるように指示されます。これほど多額の現金を手にするのは、生まれて初めてのこと。緊張しながら愛子さんに手渡すと、その場で「お札カウンター」(紙幣計数機のこと)にかけて、その操作方法と合わせて入金伝票の書き方を教わりました。

「あの人は、不動産屋さんですか?」
「ああ、高木さん? あの人は、事件屋さんよ」
「事件屋さん?」
「そう。正規に売れないものを専門に売買する人。あの人は、不動産の事件屋さんね。よく来る人だから、名前と顔、覚えておいて」

 あとでわかったことですが、事件屋にも種類があって、金策に詰まった客を連れまわす金融ブローカーをはじめ、不動産の賃借権を取り扱う人、資金繰りに使うための架空手形を用意する人、ローン中や盗難届が出されていることを理由に名義変更できない車を売買する人、顧客のクレジットカードでお金を作る人、顧客名簿を売買する人、不良債権を安価で買い取り強烈な取り立てをする人など、さまざまなタイプの事件屋さんがいました。

 地面師(土地の所有者になりすまして不動産の売却を持ち掛け、多額の代金をだまし取る詐欺を行う人物)や整理屋(倒産しそうな企業に乗り込んで債権回収を図り、高額な手数料を巻き上げる人物)、提携弁護士、エセ司法書士、保険金詐欺師のほか、女性を風俗に沈めてお金に換えるスカウトマンなどの出入りもあって、半年に一度は、会社に出入りする人の逮捕報道に接していたように思います。


 深く関わったら、いいようにされる――その道のプロといわれる方ばかりだからか、どこか不思議な雰囲気をまとうクセの強い人が多く、お土産をいただくなど優しくされても、怖い気持ちが消えることはなかったです。

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