コラム
私は元闇金おばさん

ゴミ屋敷の2階は水槽だらけ、異形の魚が悠々と泳ぎ――闇金社員が怖くなった“初現場”

2022/11/05 16:00
るり子(ライター)
写真ACより

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。

 今回は前回に引き続き、私の体験した初の債権回収の現場についてお話ししたいと思います。

 少しでも値段のつくものが残されていれば、なんでも換金してやろうと、夜逃げした債務者の自宅を確認する2人について回ると、部屋にあるタンスの引き出しやクローゼットの扉などを次々に開いていきます。特に目ぼしいものは見つからず、続いてみんなで2階に上がると、部屋の扉を開いた途端に佐藤さんが呻きました。

「なんだ、この部屋は?」
「うわあ、スゲエ!」

 部屋の中を見ると、多くの水槽が並べられており、見たこともない異形の魚が悠々と泳いでいました。ゴミ屋敷状態だった1階の汚さを忘れさせるほどきれいな部屋で、精魂を込めて面倒をみていたであろうことが伝わってきます。

「小さな水族館って感じだな」
「珍しいのがいれば、売れるかもしれないっすね。ペットショップに聞いてみますか」

 室内を物色する藤原さんの姿は、まるで泥棒のようで、現場で行動を共にしている自分が怖くなってきました。飼い主が手塩に育てた可愛いペットも、債権者からすれば、ただの動産(財産)でしかないのです。ここから出たい気持ちが強まり、居ても立っても居られない気持ちになった私は、平静を装って佐藤さんに申し入れます。

「熱帯魚屋さん、ウチの近くにありますよ。食事の用意もしないといけないし、ついでに聞いてきましょうか?」
「それは、助かります。お願いしてもいいですか?」

 早速に階段を降りて、玄関で靴を履いていると、すぐ後ろからついてきた藤原さんが、ドアスコープを覗いて周囲の様子を確認してくれました。

「前ね、買い出しに出ようと玄関を開けた瞬間に、ほかの債権者に突入されたことがあったっすよ」
「いやだあ。このタイミングで、そんな怖いこと言わないでくださいよ。で、どうなったんですか?」
「相手の若い奴が、ナイフで切りつけてきたっす。その時の傷が、これ……」

 どこか自慢気に、左腕の袖口をめくった藤原さんは、その時に切られた傷跡を誇示してきました。その後、救急車を呼んだことから警察沙汰になったそうですが、うちが現場を占有することを相手に約束させ、決着したそうです。

「ケガの功名ってことでしょうか?」
「そうっすね。自分は売り上げも悪いし、体を張るくらいしかできないっすから……」

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