サイゾーウーマンカルチャーブックレビューヒカルはなぜカリスマなのか? カルチャー ヒカル著『心配すんな。全部上手くいく。』レビュー YouTuber・ヒカルの文体は、村上春樹に似ている――初エッセイ『心配すんな。全部上手くいく。』レビュー 2022/10/20 18:30 島本有紀子(ライター) ブックレビュー YouTuber・ヒカルの文章は村上春樹の文体に似ている 3つ目の根拠は、一文一文が短く(「イエスだ」「最高だ」「必ずだ」「僕だ」「ノーだ」「愚かだ」など)、それでいて畳みかけるようなリズムがあり、子どもにとにかく読みやすいことだ。 おそらく、読みやすくするためだと思うが、2択を迫る文も多い。 「やるか、やらないか。それだけだ」 「ありか、なしか。ありだ」 「失敗には2つある。良い失敗と、悪い失敗だ」 「考えるか、考えないか、あるのはその二択だけだ」 「世のなかには2種類の人がいる。運のいい人と、運の悪い人だ」 「炎上には2種類ある。『どうでもいい炎上』と『悪い炎上』だ」 などである。 また、イメージを膨らませやすくするためか、ヒカルはたとえを使いこなす。前述したマンガやゲームのほかにも、「そばアレルギーの人がアレルギーを克服するために大量のそばを食べるだろうか?」などがある。 これらの特徴から、ある有名作家をイメージできないだろうか? そうだ。村上春樹だ(ヒカル風に)。 村上春樹の特徴といえば、リズミカルな文体に、独特だがイメージが湧きやすい比喩。その上、村上春樹も2択が好きだ。小説『ドライブ・マイ・カー』(文藝春秋『女のいない男たち』所収)では、「世の中には大きく分けて二種類の酒飲みがいる」、日本語訳を務めたジム・フジーリ著『ペット・サウンズ』(新潮社)のあとがきでは、「世の中には二種類の人間がいる。『カラマーゾフの兄弟』を読破したことのある人と、読破したことない人だ」と書いていた。『1Q84』(同)でも「ものごとには必ず二つの側面がある」「良い面と、それほど悪くない面の二つ」とのセリフがある。実にヒカル的! 第1章第7節で「ぶっちゃけ、小説や映画よりもマンガだ」と書いて、小学生に親しみを持たせつつ、世界的人気作家にも通ずる、とにかく伝わりやすい名文で、自身の考えを読ませる工夫を施す。 勝てる場所を見つけ出し、徹底してターゲットに向けた発信を行う――ヒカルがカリスマたるゆえんはそこであり、とんでもないやり手なのかもしれない。 次のページ YouTuber・ヒカルの初書籍、自己啓発書としてはどうなのか? 前のページ1234次のページ Yahoo 心配すんな。全部上手くいく。 関連記事 女ほど女の容姿を品定めする理由――藤井リナの『リナイズム』が浮き彫りにする女の残酷さ自称「おっさん」の水野美紀に見る、男も女も油断させる巧妙なハニートラップ女優から大麻教の教祖夫人へ、益戸育江が否定した「消費される私」「やっぱり自分信じねぇーと」湘南乃風のがなり説法は、本当に若者の代弁か?「素敵やん教」が持ち得なかった要素を組み込み、進化し続ける"ブンシャカ教"