「タレント本という名の経典」

女ほど女の容姿を品定めする理由――藤井リナの『リナイズム』が浮き彫りにする女の残酷さ

2014/07/06 19:00
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『リナイズム』(双葉社)

――タレント本。それは教祖というべきタレントと信者(=ファン)をつなぐ“経典”。その中にはどんな教えが書かれ、ファンは何に心酔していくのか。そこから、現代の縮図が見えてくる……。

 藤井リナといえば、一般的には“お騒がせモデル”というイメージが定着している。2008年、原付バイクが1年間で約70回の違法駐車の取り締まりを受け、罰金約60万円を滞納したと一部で報じられた。また、DA PUMPのISSAや関ジャニ∞の錦戸亮、KAT‐TUNの田中聖らと熱愛がウワサされ、田中に自殺をほのめかすメールを送り、深夜に救急車が出動する騒ぎを起こしたとも伝えられている(藤井にケガはなし)。13年8月末に、大手芸能事務所を退社した際は、「素行不良で解雇」「一般男性との結婚」などの報道が飛び出し、完全否定するなどドタバタぶりが目立った。ほかにも、ネットで検索すれば、黒いウワサや仰天のウワサがいろいろと出てくる。

■シフトチェンジしだした藤井リナ

 そんな藤井が今年4月、エッセイ『リナイズム』(双葉社)を出版した。モデルやタレントにありがちなフォトブックではなく、全編テキストのみ、藤井の写真が掲載されているのは帯だけと色気のない構成。生い立ちからモデルになった経緯、仕事観、恋愛観などを綴っている。独立については次のように語る。

「素行が悪くて解雇されたという報道がありました。『独立』ではなく『解雇』だと、一面で扱われたのです。しかも見ようによっては、私が犯罪に関係しているとカン違いされてもおかしくない紙面だったのです。文面ではそう書いてはいないけど、藤井リナが犯罪に関わっていて、それが原因で解雇になったと思わせるような、明らかに悪意のある構成でした。事件の現場にいたとか、そこでの会話や状況まで事細かに書かれていたけれど、本当にその場にはいませんでした。もう誰を信用していいのかわからない――。それまでが人を信じすぎるほうだったから、その反動で、その頃はかなりの人間不信状態に陥っていました」


 奥歯に物が挟まったような文章だが、「解雇」や「犯罪」という単語に触れただけでも、芸能人のエッセイとしては充分頑張ったと言えるのではないだろうか。巻末には「藤井リナ流生き方メソッド索引」が付いている。本文から“リナイズム”を感じるフレーズを抜き出し、索引にしているのだ。例えば、

「たとえ失敗したとしても、他の仕事をしながらでも生きていけるから大丈夫!」
「誰のマネもしない」
「個性は消さないけれど、自我はなくす」
「深呼吸じゃないけれど、一晩寝かせることって大事!」

 などである。一体どういう層が自分の生き方に“リナイズム”を取り入れようと思っているのか。大体想像がつくが、実際に確かめてやりたいと思い、Amazonのカスタマーレビューを見てみたら、発売から3カ月もたつのにまだ1つもレビューがなかった(7月4日現在)。ちなみに、藤井はこれまでに4冊のフォトブックを出版している。それらは写真が中心のよくあるモデル本だ。そのカスタマーレビューを覗いてみると……。

「私服や私物とかも載っているので、参考になります。藤井リナちゃん、やっぱり可愛いです!!」
「見てるだけで気分がアガる~!」
「可愛いすぎー」

 と、おそらく若いであろう女性がキャピキャピ騒いでいる。そこに「素行不良」の陰はない。「素行不良」の真相なんてどうでもいいのかもしれない。だから、『リナイズム』のレビューはないのだろう。藤井の前には、「可愛いこそ正義」の世界が広がっているからだ。


『リナイズム』