『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』30歳アツシ、卒検13回不合格が意味すること「人力車に魅せられて ~夢と涙の浅草物語~」

2022/10/16 13:30
石徹白未亜(ライター)

『ザ・ノンフィクション』この仕事は向いていないと、何をもって判断するのか?

 そもそも、「この仕事は自分に向いているか」の判断も難しいものだが、東京力車の場合、「卒検」がそれを知るいい基準になっているのだろう。

 一方、世の中の大半の仕事には検定や資格はない。そのような中で、何をもってして仕事に向いているか考える際に、「同じミスを何度もしたり、指摘される」というポイントは結構アテになるのではないか、と思った。

 人間なのでミスをゼロにすることはできないが、あまりに同じミスを何度も繰り返してしまう場合は、その人にとって、それは根底では「興味の持てないこと」なのだろう。人は、興味を持った物事に対しての目線は細やかで丁寧で真剣なものになり、おのずとミスは減っていくが、興味の持てないことではそれを期待できないと思う。

 また、興味が持てないことであっても「それが仕事ならば、大切に扱います」と取り組む選択肢もあるし、実際、大抵の大人はそうして働いているはずだ。しかしミスを連発するということは、それすらも「難しい」「できない」という状態であり、そこまできたら、それはその人には向いていないように思える。

『ザ・ノンフィクション』興味の持てない過酷な環境に身を置く理由

 一点不思議でならないのは、アツシはそこまで人力車に興味があるように見えなかった点だ。先週の『ザ・ノンフィクション』に登場した、山の開拓を志す若者・大地も、山に興味があるように見えなかった。また、番組でシリーズ化されているスマホ禁止の丁稚生活を行う木工会社・秋山木工で修業中の丁稚たちも、木材加工や家具製作が好きで好きでたまらない、という人は番組を見る限り少ないように見える。


 アツシも大地も秋山木工の丁稚も、「職務対象(人力車や山の開拓や木工)に対して興味がなさそう」なのに、「いわゆる普通の仕事でない過酷な道」になぜあえて飛び込むのだろう。あえて過酷な環境に自分を置くことで、自らを鍛え直したいという思いがあるのかもしれないが、過酷な環境であればあるこそ「そのものへの強い興味関心」がないと相当しんどそうだ。

 番組最後のナレーションでは、アツシの今後に対し「また走りだせばいいんです。今度は無理なく自分がピタッとはまれる場所を目指して」と言葉を当てていたが、本当にそう思う。

 次週の『ザ・ノンフィクション』は「泣き虫舞妓物語2022 ~夢と希望と涙の行方~ 前編」。京都で舞妓を目指す15歳少女・寿仁葉(じゅには)の5年の記録。

石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2022/10/16 13:30
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