『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』現実を知らなかった40代の息子「ワケあり人生と部屋探し ~無理とは言わない不動産屋~」

2022/05/09 17:08
石徹白未亜(ライター)
写真ACより

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。5月8日の放送は「ワケあり人生と部屋探し ~無理とは言わない不動産屋~」。

あらすじ

 高齢、生活保護受給、精神疾患など、住まいを借りるのが難しい人々の部屋探しを手伝う横浜のアオバ住宅社。会社には看板らしい看板もないが、口コミで客は絶えない。代表の齋藤瞳は1人で会社を切り盛りしている。

 生活保護で暮らす高齢の母親と双極性障害とADHDがある中年の息子の家族は、長年借家の庭付き平屋で過ごしてきたが、家主の都合で引っ越しを余儀なくされる。齋藤も新居を探すものの、生活保護を受給している旨を伝えると、ことごとく断られてしまう。

 息子は聴覚過敏だといい、集合住宅への転居に気乗りしないようで、家探しは難航する。齋藤の進め方に対し、スタッフへ不満も口にしていた息子は、自身で家を探してみるも、不動産会社側に生活保護受給世帯の場合9割は断られ、さらに精神疾患がある場合はほぼ断られる、と厳しい現実を告げられていた。それもあったのか、齋藤が選んだ団地への転居を決める。

 ほかに、2年前に母親を亡くした24歳と15歳の姉妹は生活保護がネックで家探しが難航して齋藤を頼る。亡くなった母親はうつとパニック障害があり、姉がヤングケアラーとして家のことをほぼ任される生活で、姉自身も精神的に参っていたようだ。


 姉妹が入居するアパートでは、隣人の80歳女性が部屋の掃除を手伝っており、姉妹も交流を喜んでいた。齋藤は今回のように入居者同士をつなげたり、入居者たちに清掃の仕事をあっせんしたり、定期的に集まるなど人の輪を作る活動に注力している。

都営住宅は倍率50倍、一方で東京の空き家は81万戸

 『ザ・ノンフィクション』では以前に、住宅探しが困難な人に向け住居を仲介する兵庫の「おせっかい不動産」を取り上げていた。その放送を見たときに、都道府県が提供している公営住宅(都営住宅、県営住宅等。所得に応じ家賃が変わる)になぜ入居しないのだろうかと思ったが、今回調べてみたところ、公営住宅は相当狭き門のようだ。

 アオバ住宅社のある神奈川県の公団住宅の抽選結果を調べてみると、定員割れになっている物件は稀で、ほとんどが5倍以上、数十倍になっている物件もいくつもあった。東京(都営住宅)はさらに過酷で、ある抽選会では平均倍率が49.7倍というありさまだった。

 一方で、住む人のいない空き家は増えつつある。総合情報サイト「プレジデント オンライン」の記事「都市部では廃墟マンションが急増中…問題の背景に横たわる日本人の『新築信仰』という病」によると、東京は「空き家率」こそ低いが、そもそもの住宅の数が多いため、約81万戸の空き家があるという衝撃の数値がある。

 空き家は安全・防犯上問題があるし、人が住まない家は劣化が急激に進んでしまう。ならば、生活に困っている人と空き家がもっとうまくつながればいいのだが、そう簡単にはいかない現状があるのだろう。


生活保護 知られざる恐怖の現場