老いゆく親と、どう向き合う?

60歳で会社を退職後、ボランティアで喜びを感じる――依頼する高齢者が「母の姿とも重なる」

2022/08/28 18:00
坂口鈴香(ライター)
写真ACより

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

 松野佳彦さん(仮名・60)の母・初枝さん(仮名・84)は北陸で一人暮らしをしている。松野さんは毎日、初枝さんに電話をかけ、絵手紙も毎月送るなど、「所詮、自己満足」と自嘲しながらも初枝さんを気にかけてきた。会話が続かなくなり毎日の電話をやめたが、なお一人暮らしのさびしさから初枝さんが「今日も誰ともしゃべらなかった」と訴えるのがつらく、「自分を悲劇の主人公にしているのではないか」とまで感じるようになってきた。

▼前編はこちら

母親に「近くに来ないか」と移り住むよう提案したが……

 頭では、「それはつらいね」「さびしいよね」と初枝さんに共感する言葉をかけてあげればいいんだろうとわかっていても、「照れもあってその一言がどうしても出ない」と苦笑する。最近は、初枝さんの声を聞いて“安否確認”したら、妻にバトンタッチするようにしたという。


 嫁と姑ではあるが、それくらいの関係のほうが、初枝さんのさびしさに共感やいたわりの言葉をかけやすいと感じている。「女の人のコミュニケーション能力には脱帽ですよ」と言うが、素直に認められる松野さんも素敵だ。

 離れていても、そんな息子夫婦がいる初枝さんは幸せだ。そう伝えると、「実は呼び寄せも提案した」と明かしてくれた。

「そんなに毎日さびしいのなら、近くに来ないかとは言ったんですが、それは嫌だと断られました。ときどき遊びに行くくらいならいいけれど、親戚も友達もいない、知らない土地に移り住むのは、やはり抵抗があるようです」

 初枝さんが断ったことに、ホッとした部分もあるというのが正直な気持ちだ。いざ初枝さんを近くに呼んだところで、都会に慣れなくて心細い初枝さんをどこまで支えられるのか、自信はない。毎日の電話でさえ負担になったのに、近くに住むとお互い無理をするのも見えていたし、初枝さんも松野さんに過大な期待や依存をしてしまうことも考えられる。

 期待に応えられなかったときの初枝さんの落胆もその分大きくなるに違いない。そうなるとお互いに不幸だ。


 「少なくとも、今よりハッピーではいられないだろうと思っていながら、母に呼び寄せを提案してみたのも、一応言うべきことは言ったという既成事実をつくりたかっただけなのかもしれません。これも自己満足ですね」と笑うのも、いかにも松野さんらしい。

ボランティアってなんだっけ?