サイゾーウーマンコラム一人暮らしをする母の電話がつらい コラム 老いゆく親と、どう向き合う? 一人暮らしをする母から「今日も1日、誰ともしゃべらなかった」報告がつらい――息子が抱える後ろめたさ 2022/08/14 18:00 坂口鈴香(ライター) 老いゆく親と、どう向き合う? 写真ACより “「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける” ――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社) そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。 母が喜んでくれなくてもかまわない 松野佳彦さん(仮名・60)は大学進学で上京して以来、松野さんいわく「親とはつかず離れず」の距離感を保ってきた。 10年ほど前、認知症を患った父親を母の初枝さん(仮名・84)が介護し看取ってから、初枝さんは実家の北陸で一人暮らしをしている。そんな初枝さんを気にかけて、松野さんは毎日電話をかけ、絵手紙も毎月送っている。出張を利用して、遠回りになっても実家に立ち寄ることもあった。“つかず離れず”とはいえ、松野さんはかなり親思いだといえるだろう。 初枝さんは父親を一人で介護してくれた。遠距離だったし、仕事も忙しかったので、松野さんはほとんど父親の介護にはかかわれなかった。仕事に打ち込めたのも、初枝さんが松野さんに助けを求めることなく、一人で頑張ってくれたからだと感謝している。 一方で、初枝さん一人に負担をかけてしまったという後ろめたさもある。 50代後半になると、会社での先も見えてきた。自分なりに頑張ったし、評価もそれなりにされてきたとは思うが、経営幹部には手が届かなかった。会社に人生を捧げるつもりもない、と言うと負け惜しみになるかもしれないが、これから先、自分はどうして生きていけばいいのか考えるようになった。 初枝さんに絵手紙を描くようになったのも、そんな時期だった。 絵手紙は、無理して描いているわけではない。昔から絵は好きだったという。見せてもらうと、見事なものだった。これを毎月、季節に合わせて描き続けるのは、いくら絵が好きとはいえ簡単なことではないはずだ。そう伝えると、松野さんは「趣味の一環、ある意味ボランティアのようなものですよ」と笑う。 「母に感想を聞くこともないので、喜んでいるかどうかもわかりません。母のためというより、自分のためにやっているようなものですから、喜んでくれなくてもかまわないんです」 「今日も誰ともしゃべらなかった」と言う母親 初枝さんに毎日電話をかけるのも、同じ気持ちからだ。 「今日も元気でいるか、倒れていないかを確認したい。電話に出てくれると、ああ今日も無事だったと自分が安心できる。それだけなんです」 離れて暮らす親の見守りサービスもたくさん出ているが、その多くは子どもが安心するためのものだ。「結局、子どもの自己満足だ」と言い切った医師がいたが、それも真実なのかもしれない。親孝行と自己満足は紙一重だと認める松野さんだが、最近初枝さんに毎日電話するのをやめたという。 次のページ 毎日会話しようとすると、話題に困る 12次のページ セブンネット 母と私の老い支度 関連記事 片付けで見つけた義父の遺言書に絶句――“執行人”の名前に「これどういうこと?」教師だった義父は、肩書を取ったら何も残らなかった――趣味も友達もない老人ホームでの姿いつも明るく笑っていた義母だったが……家計簿に書かれていた“本心”実家の将来は“安泰”と思っていたが……「おかしいなと思った」母の言動と、あっという間に崩れた生活「あなたは何もできない」蘇った母の呪縛――老母と暮らす50歳の娘の苦悩