[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

韓国、“政治的な扇動”が問題に……『キングメーカー 大統領を作った男』に見る選挙と社会の分断

2022/08/12 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

『キングメーカー』パク・チョンヒ勝利後のキム・デジュン

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 結局、71年の大統領選挙ではパク・チョンヒが勝利を収めたが、その差が僅差だったことから、キム・デジュンがいかに脅威になったかがわかるだろう。パク・チョンヒはその後、「キム・デジュン殺し」と呼ばれる弾圧を繰り返し、キム・デジュンは交通事故を装った暗殺未遂や拉致事件に巻き込まれるばかりか、政府転覆を図ったとして死刑宣告まで受けることになる。

 一方、パク・チョンヒ独裁政権は「死ぬまで大統領」が可能となる「維新憲法」への改憲を実現させるなど、さらに激しい暴走を繰り広げていく。

 このように、オム・チャンロクという存在は、韓国にとって「諸刃の剣」にほかならない。キム・デジュンの側に立ち、独裁の横暴に立ち向かう剣になったかと思えば、パク・チョンヒ側に立つと独裁の横暴を許す剣にもなってしまう。そして、その核にあるのは「カルラチギ」だ。

 ある新聞は、韓国におけるカルラチギの蔓延について、「イナゴの額のように小さく狭い国が、なぜこれほどまでに分裂しているのか」と嘆いていた。カルラチギという諸刃の剣によって犠牲となるのは、結局は「国民」自身なのである。

崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。


最終更新:2022/08/12 19:22
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