オンナ万引きGメン日誌

「お父さん、助けて!」顔認証システムで捕まった万引き老女を警察が逮捕しない理由とは?

2021/10/09 16:00
澄江(保安員)

「お父さん、助けて! 私は、ここです! 早くー!」

 バッグから出てきた年季の入ったワインレッドのガマグチの中には、折りたたまれた千円札以外の現金は見当たらず、そのほかには後期高齢者医療被保険証とどこかの電話番号が書かれた単語カードの切れ端が入っていました。保険証によれば、この店から少し離れた町のマンションに住むらしい女性は82歳。前回は、単語カードに記載された電話番号に連絡をして、息子さんに迎えにこさせたとのこと。早速に、受話器を上げた警備隊長が電話をかけ始めると、突然に老女が叫びました。

「お父さん、助けて! 私は、ここです! 早くー!」

 およそ1時間後。お迎えに来られた60代と思しき調理服姿の息子さんによれば、長年夫婦で中華料理屋を営んできた女性は、旦那さんに先立たれてから様子が変わってしまったそうで、いまや意思の疎通が図れないに近い状態にあるということでした。買い物には付き添うようにしているものの、後継した中華料理店が忙しい時間には、どうしても目が離れてしまうそうで、たびたび迷惑をかけて申し訳ないと話しています。

「ご事情はわかりましたが、こちらのルールもあるものですから、今後も入店されないようお願いいたします」

 淡々と話す警備隊長の冷淡な発言に、一言言ってやりたい気持ちにもなりましたが、自分の立場を考えれば意見を申し上げる立場にありません。


(文=澄江、監修=伊東ゆう)

澄江(保安員)

澄江(保安員)

万引きGメン(保安員)歴40年以上。スーパーで品出しのパートをしている時に、万引き犯を捕まえたことがきっかけで、この世界に。現在も週5日は現場に立っている。

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最終更新:2021/10/09 16:00
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超高齢化社会の哀しい側面