オンナ万引きGメン日誌

野球カード欲しさに万引きを繰り返した児童……やるせない犯行動機とは?

2021/09/25 16:00
澄江(保安員)

「この、バカ! なにやってんのよ!」送り届けた団地の扉から漏れた母親の怒声

 住宅街に位置する個人オーナーの店は、大型店よりも地域に密着しているため、被疑者に対する扱いが優しくなりがちです。損壊されたプロ野球チップスと被害品を集計したレシートを手に、少年とふたりで家に向かうと大きな団地の一室に案内されました。玄関口までお邪魔して、応対に出てこられた母親に本人から事情を説明してもらったうえで、速やかにレシートを差し出して商品代金を徴収します。

「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。よく言って聞かせますので……」
「余計なことかもしれませんが、大事にしていたカードを、お父さんに売られてしまったことを理由にしていました。念のため、お伝えしておきますね」
「あの子、そんなことまで話したんですか? こんなご時世だから、仕方ないのに。ほんと、恥ずかしい」

 否定されなかったところから察するに、少年の話は事実のようで、とてもかわいそうに思えてきました。商品代金を受け取り、玄関の扉が閉まった途端に、扉の向こうから大きな怒号が聞こえてきます。

「この、バカ! なにやってんのよ。パパに全部報告するからね!」

 果たしてパパは、どのような言葉で少年を叱るのでしょうか。理由はどうあれ自分が大事にしているモノを親に売られた子どもの心境を思えば、どんな言葉も響くことはないだろうと感じた次第です。


(文=澄江、監修=伊東ゆう)

澄江(保安員)

澄江(保安員)

万引きGメン(保安員)歴40年以上。スーパーで品出しのパートをしている時に、万引き犯を捕まえたことがきっかけで、この世界に。現在も週5日は現場に立っている。

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最終更新:2021/09/25 16:00
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貧困が招いた悲劇