サイゾーウーマンコラム亡くなった父へ、娘の自責の念 コラム 亡くなった父へ、娘が抱く後悔と自責……「父の言葉をいいように解釈して、苦しみから逃れてる」と語る胸中 2021/07/18 18:00 坂口鈴香(ライター) 老いゆく親と、どう向き合う? 父がくれた奇跡 子煩悩だった父親は、子どもたちにおいしいものを食べさせるのが好きだった――と、井波さんは父親との記憶を手繰り寄せるように、「不思議なことがあるんです」と話し出した。 「父は食べるものに困る時代に育ったせいか、私や弟においしいものをたくさん食べさせてくれました。旅行や着るものにはまったく興味がなかったようで大した思い出はありませんが、エビやカニや新鮮なお刺身などごちそうの思い出はたくさんあります」 父親が亡くなって、まだ四十九日も済んでいないころ、井波さんは最寄りのバス停でバスを待っていた。 「そこに、知らないおじさんが自転車で通りかかって、『近くの浜で獲った』と、荷物カゴの中にあるワタリガニを見せてくれたんです」 それは季節ごとに父親が食べさせてくれていたカニだった。 「『うちの父が好きなカニです』とつぶやいたら、『これをやるから、お父さんに食べさせてくれ』と言って、カニをくれたんです」 井波さんはあっけにとられながらもそのカニを受け取り、茹でたカニを父親の仏前に供えた。 「そのあと、皆でありがたくいただきました。父は亡くなってからも、私たちにカニを食べさせてくれようとしたのかなと思っています」 なのに――と井波さんは悔やむ。 「父は私たちにおいしいものを食べさせようと必死だったのに、私は父の食事制限の方に必死でした。親を長生きさせるために必死になるより、親が一瞬でも幸せに生きられるよう必死になればよかった。父の好きなものを思う存分食べさせてあげればよかった」 父親には糖尿病と循環器系の病があり、カロリーと塩分が制限されていた。塩辛いものが大好きだったのに、「梅干しはダメ」と怒って禁止していた。 「そういうときに、『オレは梅干しを食べ過ぎないよう、見て味わって、匂いを嗅いで味わって、最後に食べて味わって、1個で3回味わってるんだ』と言っていたのが忘れられません。長生きしてほしいなんて欲張らずに、のんびり一緒にお茶を飲んでいるだけでよかったのに……」 ――続きは8月1日後悔 前のページ12 坂口鈴香(ライター) 終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。 記事一覧 最終更新:2021/07/18 18:00 楽天 父の詫び状 親への後悔が残らない人なんているのかな? 関連記事 「震えた字で『父ちゃんのバカ』って」――母は晩年、夫が浮気相手と一緒にいるという「幻覚」を見ていた“良妻賢母”の代表のような母が……「冷蔵庫がしゃべる」「テレビが動く」と訴える、明らかな変化アルコール依存症で認知症の母、被害妄想がひどくなり……「どうしても優しくできない」介護する娘の告白限界を見た姑の介護、それでも「最期まで本当にいい姑でした」と語る胸中とは?アル中で寝たきりになった父と、10年の介護ーー離婚しても見捨てなかった「母の意地」 次の記事 海外通販サイト「マッチズファッション」が神対応 >