サイゾーウーマンコラム亡くなった父へ、娘の自責の念 コラム 亡くなった父へ、娘が抱く後悔と自責……「父の言葉をいいように解釈して、苦しみから逃れてる」と語る胸中 2021/07/18 18:00 坂口鈴香(ライター) 老いゆく親と、どう向き合う? 写真ACより “「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける” ――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社) そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。 井波千明さん(仮名・56)の母親は仲の良かった夫の死後、夫が浮気しているという幻覚に苦しめられた。両親は隣県で暮らしていたが、父親にガンが見つかり、両親は井波さん宅に滞在して治療に通った。治療終了後いったん実家に戻ったが、母親は肺の病気が悪化したため、母親だけ井波さんと同じマンションの上階で暮らすこととなった。寂しがる母親のために、父親は実家とマンションを行き来していた。 ▼前回▼ 老人ホーム、入居者の“愛人”疑惑の老女――高齢者は“清く正しい”ワケじゃない?【老いてゆく親と向き合う】“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける” ――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社) そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族...サイゾーウーマン2019.10.27 父ちゃんに何があっても、悔やまんでいいよ しばらく実家で過ごしていた父親が、久しぶりに母親が暮らすマンションにやって来た。ある日の夕方、父親は珍しく井波さんに「痰切りがほしい」と薬を求めた。 「金曜だったので、私は『じゃあ週明けに病院に行こうね』と言って、私は自宅に戻りました。その夜中、母の様子を見に行ったんですが、母の額に手を当てて『なんともないな』と思って、また戻りました。ところがその後、午前3時くらいに母から電話がかかってきたんです。『父ちゃんの様子がおかしい』って。すぐに行ったんですが、父は私に微笑みかけてくれるものの、しゃべることはできません。なぜ母の様子を見に行ったときに、父の様子も確認しなかったのか……悔やんでも悔やみきれません」 父親はすぐに病院に運ばれて、肺炎と診断された。しゃべれるようになった父親は、優しく「もう安全地に来たから大丈夫」とにっこり笑ったという。担当医からは、「軽い肺炎だから心配ないだろう」と言われたので、駆け付けて来ていた弟も家に戻った。 しかし、その夜中「急変した」と連絡が来た。 「それから半年、父は亡くなるまで意識が戻ることはありませんでした。寝たきりで胃ろうをしたり、透析をしたり……私はただ父が痛いとか、つらいとか感じてないことだけを祈りました」 井波さんが何より後悔をしたのは、「痰切りがほしい」と言った父親の言葉を気に留めなかったことだった。 しかし、井波さんを救ってくれたのもまた、父親の言葉だった。 「父がこうなる少し前、私にしみじみ話してくれたことがあります。『じいちゃんが亡くなったとき、父ちゃんは、じいちゃんから『調子が悪い』と言われたけど、仕事があったから『ちょっと我慢してて』と言って、すぐに病院に連れていかなかった。もし父ちゃんに何があっても、まったく悔やまんでいいよ』と。父は優しいから、余計にじいちゃんの死を苦しんだんでしょう。そんな話を聞いていながら、なぜあのとき痰切りを用意しなかったのか、自分にあきれます。でもこれで苦しんだら、父の思いに反する……と、いいように解釈して、苦しみから逃れているんです」 次のページ 父がくれた奇跡 12次のページ 楽天 父の詫び状 関連記事 「震えた字で『父ちゃんのバカ』って」――母は晩年、夫が浮気相手と一緒にいるという「幻覚」を見ていた“良妻賢母”の代表のような母が……「冷蔵庫がしゃべる」「テレビが動く」と訴える、明らかな変化アルコール依存症で認知症の母、被害妄想がひどくなり……「どうしても優しくできない」介護する娘の告白限界を見た姑の介護、それでも「最期まで本当にいい姑でした」と語る胸中とは?アル中で寝たきりになった父と、10年の介護ーー離婚しても見捨てなかった「母の意地」