『おちょやん』解説

『おちょやん』灯子は非常に「したたか」!? 実在の九重京子“目線”で見る、史実の不倫妊娠劇

2021/04/26 12:30
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

2人の間にあった出来事

 九重は、渋谷との関係を持つ前の気持ちとして、こういう証言もしています。

「浪花さんとは子供さんも出来なかったし、女優さんでは十分な家庭生活を味わえなかったらしい。私は、この人(渋谷)にもっと良い仕事をしてもらいたいと思った。暮れも押し詰まったある日、皆さんと食事しての帰り、『僕のために女優をやめてくれないか』と言われた。一瞬どきりとしたが、『よろしおまっせ』と言ってしまった。『ほんまやな、おおきに』と喜んでくれた」

 2人がさらに抜き差しならない関係になったのは、こんな出来事があったからだそうです。

「(ある)雨の降る夜、我が家で(九重が一人で)食事をしていたら、雨にぬれて玄関に(渋谷が)立っているので、驚いて中に入れた(略)。『もう家には帰らへんで、ここに置いてや』と(渋谷は)言った。それからは、毎日の楽屋の出入りは別々にしたりしていたが、私に子供が出来たので、舞台をやめることにした」

 九重は、渋谷に従順で、流されるままのように見えます。浪花は当初、離婚に難色を示してしましたが、渋谷は離婚を断行。一方、離婚しているのに九重とは約8年間も事実婚を続け、その間に彼女は渋谷の子を二人も生んでいますが、そんな扱いにも九重は耐えました。しかし……彼女は従順なようでいて、非常に「したたか」なんですね。


泣き笑いのエピソード