『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』名店レストランを3カ月で辞めた“何もわかってない”18歳「新・上京物語 後編 ~夢と別れのスカイツリー~」

2021/04/05 15:27
石徹白未亜(ライター)

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。4月4日は「新・上京物語 後編 ~夢と別れのスカイツリー~」というテーマで放送された。

『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

あらすじ

 2020年6月、北海道、製紙工場の煙突が立ち並ぶ苫小牧市から料理人を目指し上京した18歳の一摩。就職先はかつて人気テレビ番組『料理の鉄人』(同)にも出演した、洋食の巨匠・大宮勝雄シェフが経営する浅草の名店「レストラン大宮」だ。

 一摩は幼い頃に両親が離婚し、父親も若くして亡くなったため、祖父母に育てられた。祖父の美智男は料理人で、天皇陛下の皇太子時代に料理を提供したこともあるという。美智男は肺がんを患い2年前に現役を引退したが、今も家ではシェフコートを着て家族に本格的な料理を振る舞う。

 美智男は東京で修業時代を共にした大宮シェフに一摩を託す。一摩は一流の料理人になりたいと祖父母や友人にも話し、その姿は自信がみなぎっているが、自分で料理をしたことはほとんどない。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、2カ月遅れでようやく上京できた一摩は、東京駅の目の前にある新丸ビル内の、レストラン大宮の支店で働くことになる。しかし勤務初日、包丁を持つ手つきもおぼつかない一摩は、右も左もわからない厨房の中で、それまでの意気揚々とした様子から一変、見るからにションボリとしていき、賄いの昼食もろくに喉を通らない。そしてその晩、大宮シェフに初日にして辞めたいとまで伝えてしまう。


大宮シェフの説得もあってレストランにとどまった一摩は、ノートにポイントをまとめるなど料理の勉強を続けるものの、厨房でてきぱきと動けず、先輩から叱咤される日々が続く。徐々に仕事を休みがちになっていき、3カ月で結局レストラン大宮を辞めてしまう。

苫小牧に戻った一摩に対し、祖父母が何か責めるようなことはなかった。その後、美智男は他界。現在一摩は地元のコンビニでアルバイトをしながら就職先を探している。

料理をしたことないのに「できる」と思う“わかってなさ”

 それまで料理をしてきたことがない、という言葉通り、一摩は勤務初日、見ていてハラハラするくらい包丁使いがなってなかった。一摩の祖父は料理の世界で生きてきた人なのだから、事前に一摩に自宅で料理をさせていればよかったのに、と思った。

 何事も、手を動かしているときではなく、頭の中で思い描いているときが一番何もわかっていない。だからこそ、上京前の一摩が「一流の料理人になる」と口にしていたように、大きなことも言える。

 しかし実際に手を動かしてみれば、実際に思い描いていた夢の世界とはかけ離れた、パッとしない自分の姿と向き合うことになる。失望するし、ガッカリするのだが、頭の中で夢の世界に浸っているよりは確実に前進はしているのだ。


 こういった夢と現実の落差をまったく知らないまま、いきなり一流の世界に飛び込んでしまったことが、3カ月での退職につながった要因の一つのようにも思える。 

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