『おちょやん』解説

NHK『おちょやん』、篠原涼子の女将は「異常者」だった!? 本当は怖い“芝居茶屋”の児童虐待ぶり

2021/03/12 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

じっと見つめながら、排水溝に落ちた米粒を食べさせる

 当時の日本では「食べ物を大事に扱おう」という風潮が、現代以上にありました。それ自体は立派なことです。しかし、お釜を洗うときに、こぼれ落ちてしまう米粒があれば、それをお家はんが目ざとく見つけ、排水溝の「洗いカス」の中に紛れ込んだ米粒を、浪花さんに食べることを強いたというのです。

 しかも、浪花さんが「それ(=洗いカスの中の米粒)を自分の指でつまみ出し、口へ持っていくと、それがノドの奥を通り越すまで」、お家はんは目を冷たく光らせながら、「じっと見つめて」いたそうな。それも、浪花さん「だけ」に行われる「しつけ」だったそうです。

 もし千代=浪花千栄子さんだとしたら、そんな女将のいる芝居茶屋「岡安」の経営が微妙になってきていても「ざまぁみろ!」くらいにしか思えなかったはずです。しかも、おちょやんとしての給料は、例のごとく父親の手に全額渡っているので、いくら働いたところで、1円の稼ぎにすらならないのでした。

 しかし、そんな浪花さんが、おちょやんを辞められるきっかけとなったのは、父親(ドラマでは毒父テルヲ)だったといえば、意外かもしれませんね。
ご想像どおり、浪花さんの父親は、娘が心配で迎えに来たのではなく、自分と、彼が惚れている妻(ドラマでは栗子)の生活に金が足りないので、浪花さんを別の奉公先に送り込むことで、金を再度、得ようとしているだけなのでしたが。

 芝居茶屋のお家はんは、おちょやんが一人減るのがもったいないので、浪花さんの父親には抵抗します。おちょやんなんて、最低限の食事と着物、寝場所を与えるだけで、「タダ働き」させられる児童労働者ですからね。しかし、父親はわけのわからない理屈をまくしたて、結局、浪花さんの退職金15円をせしめ、ホクホクしていたそうです。


ーー次回は、千代の弟・ヨシヲについて掘り下げます。

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『眠れなくなるほど怖い世界史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

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最終更新:2021/03/12 17:56
水のように
お家さん、まさに外道