老いゆく親と、どう向き合う?

「いくら認知症とはいえ理解できない」母のことが大好きだった父……老人ホームで「母に激しい暴力を振るう」

2021/03/07 18:00
坂口鈴香(ライター)

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

写真ACより

 真山昌代さん(仮名・56)の義父母は二人で暮らしていたが、義父が認知症になり有料老人ホームに入居した。しばらくすると義母にも異変があらわれる。身なりに構わなくなったと思ったら、一気に言動や顔つきがおかしくなった。ついには「冷蔵庫がしゃべる」「テレビが動く」と言うようになり、義母は義父と同じホームに入居することになった。

(前回:“良妻賢母”の代表のような母が……「冷蔵庫がしゃべる」「テレビが動く」と訴える、明らかな変化

義父と離れたら認知症の症状が消えた

 本来なら、ここでいったん義父母の介護問題は解決し、落ち着くはずだった。ところが、夫婦って本当にわからない――。


「義父が義母に暴力をふるうようになったんです。それもホームの男性スタッフが止めに入らないとおさまらないくらい激しい暴力だったといいます」

 暴力の理由は、真山さんにも、真山さんの夫にもさっぱりわからない。

「義姉は、義父が義母のことが大好きだから暴力をふるうんだろうと言うんですが……。いくら義父が認知症とはいえ、私にはまったく理解できません」

「冷蔵庫がしゃべり、テレビが動く」という以上に、義母の恐怖はいかばかりだっただろうと思うと、なんとも胸が痛む。

 義姉はホームとも話し合って、義母を義父から離すしかないという結論に達した。幸い、同じ運営会社の系列のホームが同じ市内にあったので、そこに義母を転居させることができた。短い間に何度も環境が変わり、義姉も真山さんも義母の認知症が進行することを心配していたが、意外なことに結果は吉と出た。


「新しいホームに移ると、義母はこれまでの症状がウソのように消えたんです。テレビが動く、冷蔵庫がしゃべるとか言っていたのは何だったんだろうと思うくらいに。顔つきも以前のように明るくなりました。本当は認知症じゃなかったんじゃないか、と義姉と話しているくらいです」

 義姉が言うには、義母は普通の会話ができるようになっただけでなく、元気だった頃に通っていた趣味の手芸サークルにも再び通えるようになったという。

「自宅はそのままにしていたので、時々ホームから自宅に戻って、そこからサークルに通っているそうです。自宅に風を通したり、郵便物を見たりと、ほとんど以前と変わらない様子で、ホームにいる必要はないんじゃないかと思うほどです」

 高齢の親に、何が幸いするかわからない。逆に何かひとつ間違えば、一気に状態は悪化するということでもあるのだが。

なかよし別居のすすめ