白央篤司の「食本書評」

豆苗を植えて育て、豆にして……もはや大河ロマン! 日常の「食」の“ふしぎ”を追った『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。』

2021/02/09 19:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。』玉置標本 著

家の光協会 1500円(税別)2020年4月20日発行 A5判 撮影:白央篤司

 あったかくて、楽しくて。

 読んでいる間、ずっと心地よかった。お気に入りのラジオ番組を流しているときのような、あるいはごひいきの落語家の録音をかけているときのような、ゆるりホガラカな愉しさが、この本にはずっと流れている。

 副題に「実はよく知らない植物を育てる・採る・食べる」とあるとおり、ゴマ、ザーサイ、カンピョウ、コンニャクなどを筆者が育てて食べてみる。あるいは河原に生えてるカラシナの種やドングリから粒マスタードや麺を作る、その記録的エッセイ。

 著者の玉置標本さんは1976年生まれ、「釣りや料理が好きなフリーライター」で、趣味は「自然の中や家庭菜園からの食材調達全般」だが、あくまでもそれらは趣味。本著も「素人目線の体験レポート」とまえがきで最初に書かれる。


 ゴマやコンニャクがもともと植物であることは、多くの人が知っている。けれどどんな姿で生えているのか、どのように実るかを知っている人はごくまれだろう。コンニャクなど収穫できるまでには何年もかかる。ほかに効率のよい作物がいくらでもあるのに、なぜずっと作り続けられているのか。そこで玉置さんは畑で実際に育ててみたくなる。

「すると単純においしいからだけではない、自分なりに納得できる答えを見つけることができたのだ。これが最高に気持ちいい」
「知識として知ることだけが目的なら、ネットで調べれば一瞬で答えにたどり着けるかもしれない。それでも種や芋を植えるといった解決方法を選び、ゆっくりと順を追って確認したいのである」

 子どもの頃は自由研究のテーマなんて全然浮かんでこなかったのに、大人になったら試行錯誤をいとわず調べたいことがたくさん出てきた、と続く。なんて書くと、すごーく硬い研究本と思われそうだが、いやいやとんでもない。

育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。