サイゾーウーマン芸能韓流『南山の部長たち』が描く、謎に包まれた歴史 芸能 [連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』 イ・ビョンホン主演『KCIA 南山の部長たち』の背景にある、2つの大きな事件――「暴露本」と「寵愛」をめぐる物語 2021/01/22 19:00 崔盛旭(チェ・ソンウク) 崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』 パク・クネ前大統領にもつながる、“寵愛”をめぐる側近2人の対立 (C)2020 SHOWBOX, HIVE MEDIA CORP AND GEMSTONE PICTURES ALL RIGHTS RESERVED. 2つ目は、映画の中心でもあるキム・ジェギュによる「パク・チョンヒ大統領暗殺事件」だ。先述したように、ジェギュ自身が多くを語らないまま死刑となり、さまざまな説が飛び交う中で、現在最も真実に近いといわれているのが、「警護室長のチャ・ジチョルとの権力争い(パク・チョンヒへの忠誠争い)に負けつつあったことへの憤り」と、「パク・チョンヒの独裁に対する反発」の2つである。 対立の背景には、パク政権成立時のクーデターに参加していたジチョルと、不参加だったジェギュという出発点の違いが大きく影響しているとされ、クーデターの一員として貢献し、パク・チョンヒに最も近いのは自分だと自負していたジチョルは、警護室長の権限を越える行為を平気で行っていた。パク・チョンヒもそれを見て見ぬふりしていたため、ジェギュが不満を持ったといわれている。 また、軍人としての階級も年齢も上だったにもかかわらず、ジチョルは基本的なマナーを微塵も示さなかったため、ジェギュのプライドはズタズタだったとか。側近2人が大統領の寵愛をめぐって衝突するのは幼稚なようにも見えるが、当時、国民の間でも2人の仲の悪さは有名だったというから、よっぽどのことだったのだろう。パク・チョンヒはまた、国会議員の3分の1を大統領が任命できるという信じられない憲法の改悪も行っているのだが、ジェギュがその制度によって抜てきされて政界に入ったという経緯も、ジチョルとの関係に影響したと思われる。 さらに、私たちにとってより身近なエピソードに、次のようなものがある。パク・チョンヒの娘であり韓国の前大統領・朴槿恵(パク・クネ)が、親友のチェ・スンシルを国政に介入させたとして大スキャンダルとなった事件は記憶に新しいが、パク・クネはかつて、スンシルの父で怪しい宗教団体の教祖であったチェ・テミンと親密な関係にあった。パク・チョンヒがテミンの調査をさせたところ、ジェギュが一刻も早く排除すべきだと進言したのに対し、ジチョルは擁護するような報告をした。結局、パク・チョンヒはジチョルの意見を採用したため、ジェギュは不信を募らせたといわれる。パク・クネが後に、スンシルによって意のままに操られることを思うと、どうやらジェギュが正しかったと考えてよいだろう。 このようなことが積み重なって、ジェギュはパク・チョンヒに不満を募らせていったようだ。そんな彼の感情の変化や起伏を絶妙に表現しているイ・ビョンホンの演技は必見である。 次のページ 『KCIA 南山の部長たち』が“誠実な映画”である理由 前のページ12345次のページ Yahoo 実録KCIA−南山と呼ばれた男たち−/金忠植 関連記事 『パラサイト 半地下の家族』を理解する“3つのキーワード”――「階段」「におい」「マナー」の意味を徹底解説カン・ドンウォン主演『新感染半島』は“分断された韓国”を描いた? 「K-ゾンビ」ヒットの背景を探る『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ監督が尊敬する“怪物”――キム・ギヨンが『下女』で描いた「韓国社会の歪み」「セウォル号沈没事故」から6年――韓国映画『君の誕生日』が描く、遺族たちの“闘い”と“悲しみ”の現在地韓国で英雄視される「義烈団」と、日本警察の攻防――映画『密偵』から読み解く、朝鮮戦争と抗日運動の歴史