[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

イ・ビョンホン主演『KCIA 南山の部長たち』の背景にある、2つの大きな事件――「暴露本」と「寵愛」をめぐる物語

2021/01/22 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

「8割は忠実な再現」だが、「本当かどうかわからない」作品

<物語>

 1979年10月26日、大韓民国中央情報部(KCIA)部長のキム・ギュピョン(イ・ビョンホン)は、パク大統領(イ・ソンミン)を暗殺。この事件の40日前、大統領に切り捨てられ恨みを抱いていた元KCIA部長のパク・ヨンガク(クァク・ドウォン)が、亡命先のアメリカで国会の聴聞会に出席。世界に向けてパク大統領の悪政の実態を暴露し、波乱を巻き起こしていた。

 怒り狂ったパク大統領の命令でアメリカに渡ったギュピョンは、回顧録を執筆中だというヨンガクから原稿を奪い、出版を阻止しようとする。一方、ギュピョンを差し置いてパク大統領に取り入ろうとする警護部長のクァク・サンチョン(イ・ヒジュン)も、事態を収拾するために動き出す。しかし、2人はことあるごとに衝突し、パク大統領への忠誠争いは次第にエスカレートしていく……。

※以下、映画のネタバレを含みます。

 本作の特徴は、これまで「ただの殺人者」とレッテルを貼られてきたキム・ジェギュの人間性に重きを置き、「キム・ギュピョン」という架空の人物に彼の感情や内面の動きを丁寧に落とし込んでいる点だ。とはいえ、近年の韓国映画に多く見られるような「ファクション」(歴史的事実に映画的想像力でフィクションを混ぜたジャンル)としてではなく、原作者が「8割は忠実な再現」と映画に太鼓判を押すほど、ノンフィクションに寄り添う姿勢をとっている。


 また、最近は「パク大統領による独裁を終わらせた英断」とジェギュの暗殺を再評価しようとする動きも出てきているが、映画は彼を英雄視することなく淡々としており、演じたイ・ビョンホンもまた、「自分は政治的な要素にはまったく興味がないので、ひたすら人間としてのキムを演じることに集中した」と語っている。

 ただし、映画では実名を用いず、「パク大統領」さえも「パク・チョンヒ」と呼ぶことがないのは、ここで描かれていること自体も本当かどうか明らかではなく、真実は謎のままであるという事実を示すためではないかと思われる。

 それでは以下に、映画を構成している大きな2つの事件を中心に見ていこう。

実録KCIA−南山と呼ばれた男たち−/金忠植