[コラム]K-POPタテ・ヨコ・ナナメ斬り

NCT Uの「90’s Love」を徹底解剖! 90年代の元ネタから楽曲・歌詞・ビジュアルをフル解説

2020/12/03 19:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

【3】ビジュアル

 それではビジュアルの解説に入りたいと思います。全部で8つのモチーフを取り上げます。ただファッションの事に関してはあまり詳しくないので参考程度にどうぞ。

1:アイスホッケー

 全編を通してアイスホッケー場が舞台になっていますが、アイスホッケーはアメリカでは野球やバスケ、アメフトに並ぶ4大スポーツの一つです。カナダ発祥のスポーツとされており、80年代までホッケージャージをファッションとして着ていたのは白人(主にカナダ人)でしたが、80年代後半からHiphopファッションに取り入れ始められます。

■Audio Two – Top Billin’ (87)

 14秒ぐらいに映る、Audio Twoのメンバー、Kirk “Milk Dee” Robinsonが着ている、白地に肩のところに赤いラインの入ったジャージがモントリオール・カナディアンズのユニフォームです。ちなみに、現在のモントリオール・カナディアンズのユニフォームは赤地に青のアクセントの入っているもので、「90’s Love」の衣装に少し似ています。ニューヨーク・レンジャーズのユニフォームが青地に赤のアクセントが入ってるものなので、この辺りにもインスパイアされていそうです。

 94年頃からSnoop DoggやA Tribe Called Questなどの人気ラッパーたちがアイスホッケーのユニフォームを着始めます。直接的な理由はわかりませんが、ユニフォームの原色デザインが90年代の原色で色とりどりなファッショントレンドに合っていたことや、バスケなどでもそうですが、地域毎にチームが存在するためHiphopのレペゼン文化()に合っていたのではないでしょうか。Snoopは大のアイスホッケーファンといわれており、さまざまなチームのユニフォームを着ていますが……。


レペゼン文化:地元のことを歌詞に入れたりして地元愛、地元を代表していることを表す。N.W.Aの「Straight Outta Compton」から始まったと言われている。

■Snoop Dogg – Gin And Juice (94) :ピッツバーグ・ペンギンズのユニフォーム着用

■A Tribe Called Quest – Oh My God (94) :ニュージャージー・デビルスのユニフォーム着用

 98年にはニューヨーク・クイーンズ出身のグループOnyxが客演を迎えホッケー選手に変身し、白人チームと戦うというコンセプトのMVの「React」をリリースします。

■Onyx – React (98)


 「90’s Love」のアイスホッケーコンセプトは上記から引用しているのもあると思いますが、同じように韓国でも当時のアメリカのファッションを取り入れた、前述のH.O.Tがアイスホッケーユニフォームで披露した「Candy」という曲があります。

■H.O.T – Candy (96)

 90年代後半の韓国ではソテジワアイドゥルが大流行したこともあり、いわゆるアイドルと呼ばれるような人たちがHiphop感のあるコンセプトをやることが珍しくありませんでした。一方で、引用元のアメリカでもHiphop関係なく最前線のアイドルがこのような雰囲気だったので、正直どちらの文脈なのか判断がつかないところではあります。

■서태지와 아이들 (Seo Taiji&Boys) – 컴백홈 (Come Back Home) (95)

■Backstreet Boys – Get Down (You’re The One For Me) (96)

 またマークが整氷車の上に乗っているカット(0:31~など)は、ごく最近のものですがこのMVが思い出されます。

■Cashmere Cat, Major Lazer, Tory Lanez – Miss You (18)

2:赤い衣装 (0:17~)

 90年代で真っ赤な服装と言えば、ストリートギャングの「Bloods」(ブラッズ)が思い出されます。

 69年にカリフォルニア州ロサンゼルスで結成されたストリートギャング「Crips」(クリップス)は数々の暴力事件を起こし、それに対抗するため、アメリカ各地のギャングが結集し、同じくロサンゼルスで72年に結成されたのが「Bloods」(ブラッズ)です。前述のSnoop DoggやNate Dogg、Eazy E、WCなどはクリップスに所属しており、The GameやCardi B、DJ Quikなどがブラッズに所属していました。

 当時、ギャングを含む貧困層は安いからという理由で、白いTシャツにデニムジーンズというスタイルをしていましたが、クリップスの人たちがたむろしていると、デニムの青色のせいで「いつも青い服を着ている集団」として見られるようになります。中には、ジーンズに合わせて顔を隠すために青いバンダナをマスクとして身に付けている人もおり、クリップスには「青」のイメージが付きます。

 対抗してできたブラッズは、名前の血を意味する「Blood」から赤色のものを身につけるようになります。ほかにもクリップスが腰の左側にバンダナを垂らすのに対して、ブラッズは右側に垂らしたり、お互いの頭文字のBとCの存在を認めていなかったり、たくさんのルールがあります。DJ Quikは「Quick」が本来のつづりですが、ブラッズなのでCを抜いた「Quik」になっています。

 当時、ブラッズ内でMexican hat danceを取り入れた踊りが「Skip Walk」と呼ばれており、ライブなどで披露されていましたが、それを見たクリップスのメンバーがSkip Walkを取り入れステップを少し変え「Crip Walk」(C-Walk)というダンスを作ります。対してブラッズはSkip Walkを改め「Blood Walk」(B-Walk)とし、お互い自分たちだけのステップを定義します。

 WCのMV内1:30~C-Walkのステップが出てきます。段々とステップに儀式的な意味がついてきて、抗争などで勝利を知らしめる際に行うものなっていきます。相手の血をつま先に付け、「C」の文字を地面に書いたのが始まりとされていますが、アメリカの場所によってはC-Walkをすると傷害事件などに発達することもあり、地域や規則によって禁止されているところもあります。

■WC – The Streets ft. Snoop Dogg, Nate Dogg (02)

 細かいですが、本当に90年代のこのようなカルチャーに則るのであれば、赤を基調とした衣装に青のジャケットを合わせるのは正直どうなんだろう……と思ったりはします。

3:カラフルな衣装 (0:26~)

 このカラフルな衣装を着用しているパートは、ここまでのようにストレートに90年代を引用するというよりも、カラーリング、シルエット、アクセサリーなどで”90年代のイメージ”を再解釈した、現代的なスタイルに感じます。

 というのも、それ以外のシーンは皆Air MaxやAir Jordan、Air Forceなどを履いて、CarharrtやRaf Simonsなど昔からのブランドのものを身につけていますが、このシーンではヘチャンがCOMME des GARÇONSとASICSのGEL-Lyte IIIという今年発売されたスニーカーを履いていたり、マークが03年にできたBillionaire Boys Clubの今年発売されたシャツを着て、ソンチャンがRhudeという13年に誕生したブランドのポロシャツを着ています。

 90年代で、あえてこのようなカラフルでごちゃごちゃしたファッションを挙げるとすれば、80年代後半~90年代前半にかけてのこの辺りでしょうか。

■Salt-N-Pepa – Push It (86)

■DJ Jazzy Jeff & The Fresh Prince – Parents Just Don’t Understand (88)

■TLC – Ain’t 2 Proud 2 Beg (91)

 「90’s Love」のリレーダンス動画でジェノやヘチャンがTommy Hilfigerの服を着ていますが、Tommy Hilfigerも90年代に人気を博したブランドで、当時R&Bシンガーとして大人気だったAaliyahが97年に広告塔としてCMに出演しています。

 ちなみに、またもや細かいことを言い出すと、赤い衣装でヘチャンが履いている青いソールのスニーカーはSankuanzという、08年に中国・アモイで設立されたブランドのものだったり、ジェノのシャツはバレンシアガだったり、ウィンウィンのTシャツはAPEだったりするので、今までの話なんだったんだ感が少しあります……。

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