『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』「社会に知ってほしい」のは誰のためか「生まれてくれて ありがとう ~ピュアにダンス 待寺家の17年~」

2020/06/08 17:22
石徹白未亜(ライター)

「お父さんとお母さんは先に死んじゃうから、自分でできるように」

 待寺夫妻は60歳をすぎ、幸は最近脚の調子も悪いという。「お父さんとお母さんは先に死んじゃうから、自分で何でもできるようになっておかないと」という両親の話を聞いた優は、半年前から家族の皿洗いを志願する。皿を洗う優を後ろで高志がじっと見守っていた。高志、幸どちらの意見も優を思っている点は共通している。

 「優のことをもっと広く知ってほしい」という幸の願いは、もうすでに一部では実現しているのではないかと思った。ダンサーの植木は行き詰っていたときに、ダンスが好きだという思いが伝わる優たちのダンスを見て迷いが一気に晴れたと話し、それが今回のオファーにつながっている。

 優は植木の人生の転機に深く関わっている。これは「優のことを知ってもらう」一つの成果なのではないだろうか。しかも植木は優の尊敬する人なのだ。「自分が尊敬する人に良い影響を与える」というのは、心が震えるような幸福だと思う。おそらく幸には「もっと広くあまねく」という思いもあるのだろう。

 待寺夫婦は互いに意見が違うことを知っていて、 話し合いを重ねている。互いの意見を尊重する、 とまでではないが、どちらかの意見を否定、無視、小ばかにすることはなく、違ったままで共存しているように見えた。これができている世の中の夫婦はどのくらいいるのだろう。

 次週のザ・ノンフィクションは『19歳の漂流 ~妊娠…出産…家族を求めて~』。NPO法人「BONDプロジェクト」の橘ジュンと、彼女に救いを求めた19歳の妊婦たち。


石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2020/06/08 19:23
35年間ダンスを踊り続けて見えた夢のつかみ方
一人で自立できなくても迷惑かけもいい