[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

韓国映画『ミッドナイト・ランナー』での「朝鮮族」の描かれ方と、徹底的「偏見」の背景とは

2020/03/27 19:00
崔盛旭

近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。しかし作品の根底にある国民性・価値観の理解にまでは至っていないのではないだろうか。このコラムでは韓国映画を通じて韓国近現代史を振り返り、社会として抱える問題、日本へのまなざし、価値観の変化を学んでみたい。

『ミッドナイト・ランナー』

『ミッドナイト・ランナー』(クロック・ワークス)

 「ディアスポラ(Diaspora)」という言葉がある。「離散」を意味し、何らかの形で祖国を離れ、新しい土地に定着して生きる人々を総称する言葉だ。韓国の近現代史には、日本に住む在日朝鮮人や中国の朝鮮族、旧ソ連のカレイスキー(高麗人)など、朝鮮半島にルーツを持つディアスポラが多数見受けられる。その背景には、日本による朝鮮の植民地支配の歴史がある。日本統治下での弾圧や貧困、戦争への徴用などをきっかけに、多くの朝鮮人が日本へ、中国へ、そして旧ソ連へと散らばっていったのだ。

 世界のどの民族のディアスポラもそうであるように、彼らは定着した新しい土地で、さまざまな差別や偏見と闘いながらマイノリティとしての歴史を築き、現在もなおたくましく生き続けている。いつかは祖国に帰りたいという思いを持ちつつも、移住した先の土着文化と自らの固有文化を融合させた第三の文化を形成し、文化的多様性を担うグローバルな存在でもある。例えば中国語と韓国語を流暢に話す朝鮮族には、日本や諸外国に留学して更に異なる言語を習得し、世界を股にかけて活躍する優秀な人も数多い。

 ディアスポラの話から始めたのは、今回取り上げる『ミッドナイト・ランナー』(キム・ジュファン監督、2017)の中で、物語を成り立たせる上で欠かせない「悪役」として朝鮮族が描かれているからだ。人気俳優が主演し、韓国で大ヒットを遂げた青春アクション映画である本作だが、コラムでは主人公たちの敵となる朝鮮族の描かれ方について考えてみたい。まずは映画の紹介から始めよう。

≪物語≫


 肉体派のギジュン(パク・ソジュン)と頭脳派のヒヨル(カン・ハヌル)は警察大学の同級生。二人はある晩、女の子との出会いを求めて遊びに行ったクラブからの帰り道に、若い女性が車で連れ去られる現場を目撃する。二人は早速、学校で習った捜査の知識を総動員し、チャイナタウンにある犯人のアジトにたどり着く。犯人たちは、若い女性たちの卵子を集め、不妊治療の病院に不法に売りつけるといった犯罪に手を染めた朝鮮族だった。女の子たちを助けようと立ち向かう二人だったが、逆に捕まって監禁されてしまい、辛うじて脱出するも、ほかの捜査が詰まっているからと警察からは後回しにされてしまう。正義感と使命感に燃える二人は、ついに自分たちの手で女性たちを救出しようと計画を立てる。

ミッドナイト・ランナー デラックス版