ギャンブル依存症問題を考える会・田中紀子氏インタビュー

元依存者がギャンブル業界の“矛盾”解説――IR、厚労省「ギャンブル依存症対策」の“まやかし”

2020/02/24 21:00
石徹白未亜(ライター)

 カジノを含む統合型リゾート(IR)の設置を受け、厚生労働省はギャンブル依存症の治療を4月から公的医療保険の対象とする方針を示し、賛否両論が起きている。この方針の問題点とは何なのか? 公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表で、『祖父・父・夫がギャンブル依存症!三代目ギャン妻の物語』(高文研)の著書があり、自身も同依存症を抱えていた田中紀子氏に聞いた。

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今回の厚労省の発表のポイント

――IRと関連し、ギャンブル依存症の治療について公的医療保険の適用対象とする、という方針が発表され、波紋を呼んでいます。

田中紀子氏(以下、田中) マスコミの書き方で誤解されている方も多いと思うのですが、「ギャンブル依存の診断、治療に対する公的医療保険」はすでに適用済みなんです。今回の厚労省の発表のポイントは、グループ療法が新たに保険適用されるという点です。

 私自身は自助グループにも通っていますが、(医療機関による)グループ療法を保険の対象にする、という今回の方針は問題があると思います。

※自助グループ:同じ困難や課題を抱える個人や家族など当事者同士が結びついた集団。問題の専門家はグループに不在で、あくまで当事者による集団であることが特徴。
※グループ療法:同じ困難を抱える患者と、その領域の治療者がひとつのグループとなり、治療を行う心理療法。


――医療機関によるグループ療法は、どういった点が問題なのでしょうか?

田中 まず1つ目は、医療機関等の抱え込みによって、自助グループが衰退してしまうこと。ギャンブル依存症はアルコールや薬物に比べて圧倒的に自助グループが少なく、アルコールの10分の1以下しかありません。ギャンブル依存症から回復し、ギャンブルをやめ続けるには自助グループが必要です。「同じ問題を抱えたほかの誰かを助ける」という役割を果たすことで、自分自身がやめ続けられるという、つまり「助けるものが助かる」という好循環が自助グループにはあります。金銭面からみても、税金はもちろんお金がほとんどかからない最良の依存症の受け皿です。まず、自助グループを育てることこそが日本の課題なのです。

 私自身、30代の若い10年をギャンブル依存に費やし、数千万円を使いました。後悔とか罪悪感で心が押しつぶされそうになるわけです。でも、ギャンブル依存症の人を助けるという使命ができた時に、そのつらい経験が初めて生かされる。見ないでおきたい、忘れたいと思っていた体験が、すごく価値のあるものに変わるわけです。それが、「あのときのことなんて二度と考えたくない」となってしまうと結局ギャンブルでそれを解消するしかないわけです。過去の経験に意義や、役割、使命ができた時に、回復につながるんです。

 2つ目の問題点は、今回の(医療機関による)グループ療法には医療保険が適用される期限が設けられていないこと。これにより、病院の中には「卒業」させず、ずっと患者でいてくれた方が儲かるからと、自助グループと連携しようとしないところがでてきます。自分たちのところで囲い込んでしまおうということです。

――医療費削減は国家的な課題であるはずですが、逆行しているように見えます。


田中 自助グループは、国などの補助も受けず、自立した活動を行っています。私たちもギャンブル依存対策について、「できるだけ社会負担費を増やすな」というスタンスをとっています。まずギャンブル業界がギャンブル依存対策に対する努力を最大限に払ってから、医療費といった社会負担費を増やすべきだと思っています。ギャンブル産業側が義務を果たさないうちから、国民が真っ先に負担するのはおかしいですよ。

 トヨタ自動車が交通事故を削減できるような車を開発するように、自社の産業の負の側面に、もう少し責任を持たせる必要がありますよね。依存症者を大量に生み出すだけの今のギャンブル産業の在り方は間違っていると思います。

――なんで厚労省発表は、今すでにある自助グループの仕組みを活かさなかったんでしょうか?

田中 医療機関に関わらせることで、利権を得る人が政権に近いからではないでしょうか? 私たちのような民間団体や自助グループは政治的な力もないし、政治家にとってもうまみがないですから。私たちの声はヒアリングすら行ってもらえていません。

三代目ギャン妻の物語